酒饅頭(さかまんじゅう)は皮とあんこのバランスが難しいと思う。
1+1が3になる酒饅頭と出会えることはそう多くはない。
私にとって、東京・荻窪の「高橋の酒まんじゅう」(店名です)はその筆頭格の酒饅頭である。
平べったい形で、艶やかな表面から、店主のきれいな熟練の手の匂いのする、何とも言いようのない、心に刺さる外見。
酒種のいい香りが半径60センチほどを花畑にするような(表現がヘンかな)。
よく見ると、一個一個微妙に形が違う。
オーガニックコットンのような皺(しわ)。しっとりともっちりの予感がなだらかな起伏となり、思わず手で触りたくなる(ン? スベってたらごめんなさい)。
艶の奥にうっすらとあんこが見える。見え方がたまらない。
手で二つに割ると、きれいな藤紫色のこしあんが現れ、ひと口ふた口いくと、これがめっちゃ美味い。
口の中にふわりと広がる吟醸香とあんこの幸福感。
淡い甘さと舌触りの質が他の酒饅頭とは明らかに違う(個人的な感想です)。
ピュアなまったり感。塩気は感じない。
酒饅頭の貴種、と言いたくなる。
「小豆は北海道産です。砂糖はグラニュー糖。添加物を使っていないので、この季節は賞味期限は3日間です」
メガネをかけたマスク姿の女性スタッフがテキパキと教えてくれた。
と思いきや、「三代目」だった。汗。
7~8年前に来た時は店主はイケメン中年男性で、確か「二代目です」と話してくれた。ルーツは姫路とおっしゃっていたと思う。
それを言うと、「あっ、兄ですよ。今は私が後を継いでます」。
7個入り1パック(税込み 840円)。
この店がすごいのは製造販売しているのは「酒まんじゅう」一種類のみ。
浮気もせずに(?)、初代から続く昔ながらの製法(酒種を練り込んだ生地を3日間寝かせる⇒手包みなど)を守っていること。
秘伝なので、詳しい作り方は想像するしかない(当たり前だが)。
きっかり正午で「本日終了」の木札がぶら下がるので、前日に予約して、午前中に大急ぎで店まで行かなければならない。
友人でもある酒蔵五代目(酒饅頭を研究している)への手土産としてもう1パック予約しておいてよかった(後で感謝された)。
なので、今回は選択の余地がない。
【本日のセンター】
35グラムの凝縮、なめらかな薄皮とこしあん
JR中央線荻窪駅北口から5分ほど歩くと、茶色いっぽいレンガの建物が見え、「高橋の酒まんじゅう」のシンプルな看板が視界に入ってくる。
以前のまま。
和菓子屋という感じがしない。酒饅頭の小さな工房、といった感じ。
少し話を伺った後、夜遅く自宅に戻った。
昔ながらの蒸し籠でふかしているので、パックを開けると、どこか懐かしい、純朴な、それでいて洗練を感じさせる独特のオーラで「よ・う・こ・そ」とつぶやかれた気がした。空耳?
手づくりなので、形も大きさも微妙に違う。
平均すると、65ミリ×50ミリ×厚さ22ミリほど。重さは約35~36グラム。
すでに冷たくなっていたが、冒頭に書いたように、吟醸香が広がるなめらかな皮と甘さを抑えたピュアなこしあんが絶妙なタッグで口の粘膜をくすぐり、混じり合い、いい余韻とともにどこかへと消えていく。そんな感じ。
このどこかへと連れて行く感覚がたまらない。一体どこへ?
無濾過生原酒をチビチビ飲みながら、2個3個と食べ進み、あっという間に4個胃袋へと落ちていった。
このある種の「親子マッチング」はあり、だと思う。
・2日後の味わいは?
3日間が賞味期限なので、2日後、レンジで10秒(600W)チンしてから賞味してみた。
味がほとんど落ちていなかった。
ほんわかと温かくなっていて、むしろ蒸かし立てに近い感覚。
酒種とこしあんの香りが増した感じさえある。
知人の元女子アナは茶会の席でこの「高橋の酒まんじゅう」をよく使う、と話していたが、抹茶にもよく合うし、コーヒーとのマッチングも合うと思う。
残り1個。食い意地が張っているので、ついつい惜しむように見つめる。
すると、なぜか湯上り美女(?)がぼんやりと見えてきた・・・そんな気にさせてくれる酒饅頭はあまりない。
「高橋の酒まんじゅう」
所在地 東京・杉並区天沼3-1-9
最寄り駅 JR中央線(あるいは東京メトロ)荻窪駅北口歩約5分