京都の「おまん屋はん(饅頭屋)」には数的にかなわないが、東京にもいい饅頭屋が隠れている。今週は金星めっけた気分じゃ。
私の好きな「高橋の酒まんじゅう」(荻窪)に負けない、もし東京まんじゅう屋番付があったら、東の横綱格に位置付けたくなる饅頭屋さんが下町にある(個人的な評価ですが)。
三ノ輪駅で途中下車、国際通りを浅草方面へ歩いて7~8分ほど。竜泉3丁目の標識が下町の歴史を感じさせる。金星が隠れている場所。
江戸時代は遊郭吉原が繁盛した地帯で、明治になると、かの樋口一葉が一時、この界隈で駄菓子屋を営んでいた(現在は樋口一葉記念館)。
青空の下、寒風にさらされながらひるがえる「まんじゅう」のノボリがどこか懐かしい。
知る人ぞ知る手作りまんじゅうオンリーの「おし田」である。
小さな店構え。売られている饅頭は2種類、「田舎まんじゅう」(税込み 135円)と「白まんじゅう」(同135円)だけ。
何という存在感。出会った瞬間、ひと目で持っていかれそうになってしまった。
タイムスリップして、明治・大正から抜け出てきたような、驚くほど素朴な饅頭で、ついひれ伏したくなりませんか?
東京下町の饅頭屋さんの隠れた実力を思い知らされる。
京都のおまん屋はんとどこかつながっている気もする。
店は創業が明治43年(1910年)、話好きの女将さんと3代目店主が二人で切り盛りしていて、「下町っていいなあ」とつぶやきたくなる。
湯気の中で饅頭づくりの最中の店主の動きをずっと見ていたくなる。
なかなか見れない光景だと思う。
田舎まんじゅうと白まんじゅうを二個ずつ、二折包んでもらって、夜遅く、自宅に戻ってから、賞味することにした。
添加物ゼロ、賞味期限は「今日中に」なので、黄金の時間が夜になってしまった(蒸かし立てが一番美味いのに)。
【本日のセンター】
名物田舎まんじゅうのつぶあんの美味さがマックス
「名物」と銘打っているだけに、こちらが主役だと思う。黄色っぽいグレーの皮が半透明で、中のあんこがうっすらと透けて見える。
大きさは左右約65ミリ、厚みは35ミリほど。重さは83グラム。
かなりの大きさで、表面のでこぼこ感が魅力的で、この手作り感がたまらない。
ちょっと見には、茨城・結城市のゆでまんじゅうを思い起こす。
あるいはゆでまんじゅうの親分。
驚くべきは中のあんこ(つぶあん)で、「北海道産小豆と上白糖、使っているのはそれだけです」と教えてくれたが、口に入れた瞬間、いい小豆の風味がふわっと吹き上がるのがわかった。おおお。
ぎっしりと詰まった濃い藤紫色のあんこ。
甘さは控えめで、何よりもその吹き上がり方がマックス級としか言いようがない。
小豆の皮までなめらかで、ふくよかなあんこ。
雑味がない。代々受け継がれた、秘伝のあんこだと思う。
うめえ、という言葉が自然に何度も出て来る、そんな饅頭はそうはない、と思う。
時間が経つにつれて、皮がかたくなるようで、やはり蒸かし立てを食べるのが一番だと少し反省した。
【本日のサブ】
皮がふかふか、食感がマイルド「白まんじゅう」
こちらは「ふくらし粉を使っているので白くなるんですよ」(女将さん)とか。
皮のしっとりとしたふかふか感が、こちらの方が個性が穏やかで、万人向けだと思う。
中のつぶあんは同じもの。
買ってから8時間ほど経過していたので、レンジ(500W)で20秒ほど温めてみた。
全体の風味がさらに増した気がしたが、最初の印象が強烈だったので、感動が微妙に変化した気もする。
レンジは元々の味わいを3~5%くらい減らすのではないか?(個人的な印象です)
【日本酒との相性は?】
たまたま友人から長野・飯山市の辛口吟醸酒「水尾」(田中屋酒造店)をいただいたので、残りの饅頭とマッチングしてみた。
組み合わせとしてコーヒー、お茶と合うのはわかっているが、辛口吟醸酒はどうか?
結論的にはこのマッチングは合うと思う。相性度90%くらいかな。
個人的には、田舎まんじゅうよりも白まんじゅうの方がお酒との相性はいいかな、というのが食後の感想。
樋口一葉は明治29年に24歳で亡くなっているので、この「おし田」の饅頭には出会っていない。
もし食べていたら、どんな感想を残したか、ついあれこれ想像したくなった。
「おし田」
所在地 東京・台東区竜泉3-10-8