饅頭(まんじゅう)の中でも温泉饅頭は独特の情緒がある、と思う。
温泉まんじゅうの食べ比べ。
今回取り上げたのは、草津温泉が「本家ちちや本店」と「松むら饅頭」。どちらも草津を代表する温泉饅頭屋さんである。
対する伊香保温泉は、温泉饅頭の元祖といわれる「勝月堂(しょうげつどう)」。
この3店を選んだのは、現地の情報と中心街から歩いていける距離にあること、茶饅頭が主役であることなど。他意はない。
胃袋と時間とお金に余裕があれば、十数店全部食べたいところだが、限られた中ではギリギリの選択だった。
まずは草津温泉代表トップバッターは「本家ちちや本店」。湯畑から歩いて2~3分の距離に木造建て、紺地の暖簾が下がっている。
創業は昭和49年(1974年)。現在2代目。つぶしあんの茶まんじゅう(1個 税込み110円)の他に栗あんの二色まんじゅう(同130円)を買い求めた。テイクアウトのみ。
どちらも小ぶりで、皮が破れそうなほど柔らかい。
茶まんじゅうはごらんの通り。近くのカフェでこっそりと蒸かし立てを賞味した。
ふわふわの黒糖入り薄皮、しっとり感のあるあんこ。こしあんのような。皮まで柔らかい、あっさりした風味と余韻。甘さは控えめ。今回試食した中では一番クセがない。
二色まんじゅうは白いふわふわ皮で、中に栗あんをこしあんが包み込んでいる。ゆえに二色。「当店限定」が売り。温泉饅頭の中では新しい試みだが、若い層を取り込もうとしているのがわかる。
栗の風味がきれいなこしあんとよくコラボしていると思う。控えめな甘さが好感。
あんこは自家製ではなく、製餡所に特注しているとか。個人的にはちょっと残念。
2番バッターは茶饅頭一種類、それもつぶあんだけで勝負している「松むら饅頭」。創業は昭和20年(1945年)。2代目と3代目が朝早くから饅頭づくりにいそしんでいる。
1個税込み100円。本家ちちやよりも平べったく、少し大きい。皮がつややかで、色も濃い。
商家造りの古い建物。紺地の暖簾。早朝作ったものを正午過ぎに湯畑まわりで賞味した。
夕方には売り切れることも多い、という人気の温泉饅頭で、つややかな黒糖入りの皮がしっかりしている。
中のつぶしあんはなめらかで皮まで柔らかい。ほどよい甘さ。自家製あんこがたっぷりと詰まっていて、手の匂いのする素朴なまったり感が、ディープなファンをつかんでいると思う。
できればこしあんも作ってほしいが、つぶしあん一本道も店主のポリシーなのでそこは立ち入れない。
真打は伊香保温泉代表の「勝月堂」。何せ「温泉饅頭」を初めて考案したのがこの店と言われる(諸説ある)。
饅頭の歴史は鎌倉時代までさかのぼるが、温泉場で茶色い饅頭を作ったのはここが初めてという。ゆえに温泉饅頭というジャンルができた。
創業は明治43年(1910年)。百年以上の歴史があり、現在3代目。
初代が東京・風月堂で修業し、伊香保に帰郷した時、古老から「伊香保にはこれといった名物がない、何かできないか」と頼まれ、伊香保温泉の湯花をイメージした黒糖入りの茶饅頭を考案したという。
伊香保のメーンスポット、石段の最上階に近い、伊香保神社下に店を構えている。
立ち上がる水蒸気。4~5人の職人さんが早朝から饅頭づくりに励んでいる光景はなかなか見れない。
創業以来の製法を今も変えていない、しかもこしあん入り一種類だけ。「湯乃花饅頭」の名で1個税込み120円。箱売りが基本だが、店先で頼めばバラ売りもしてくれる。
テイクアウトのみ。小皿に2個のせてもらい、外の縁台で賞味する。
大きさは草津・松むら饅頭と同じくらいか。丸みがある。
正真正銘の蒸かし立て。皮のもちもち感がとてもいい。
中のこしあんは塩気が強めで、しっとりとふくよか。甘さがほどよい。北海道十勝産小豆を使用、創業時からの自家製にこだわったこしあんともっちりした皮が絶妙な味わいを生んでいる。余韻も長く、きれい。
こしあんの色が藤色に近く、蒸かし立てということもあるとは思うが、個人的な好みで言わせてもらうと、今回の温泉饅頭めぐりの中ではナンバーワンだった。
全体のレベルが高いので、好みの違いもあるとは思うが。
私がこれまで食べた黒糖饅頭の中で、最も感動したのは栃木・大田原市佐久山宿「小島屋」の「勘兵衛饅頭」だが、それとよく似た絶妙な美味さ。
とにかく別格と言いたくなる味わいだと思う。
皮をこねるときに伊香保は源泉のお湯を使い、草津は酸性なのでそれができない(あるいはしない)。
和菓子好きだった昭和天皇も「勝月堂」の湯乃花饅頭のファンだったらしい。
とはいえ草津vs伊香保の温泉饅頭新旧対決、結論は温泉にゆっくり浸かりながら、じっくりと考えることにしよう。ずるい結論ということで(笑)。
〈所在地〉