コロナ以後、お取り寄せにもハマっているが、今回は大納言小豆ファンにはたまらない逸品をご紹介したい。
素朴と洗練が見事に融合したそのお姿を見ていただきたい。
半透明の小豆羹の中には求肥餅(ぎゅうひもち)が潜んでいて、私の好きな叶匠寿庵(本店=市が・大津市)の「あも」と似ているが、店としてはこちらの方が歴史がはるかに古い。
光を通すと、奥ゆかしい美しさが際立っていると思う。
寒天と水飴を加えたこしあんの白濁した層とそこにボコボコと咲く大粒の小豆が迫ってくる。
ヘンな表現だが、あんこ美女に「おいで」とささやかれている、一瞬そんな妄想が起きるほど。まずは目の幸福感。
たまらない予感。
その奥の求肥餅にはまだたどり着けない。焦ってはいけないと言い聞かせる。
創業が文政5年(1822年)、現在7代目。関東でも超老舗の「鹿島菓匠 丸三老舗(まるさんしにせ)」の「常陸風土記(ひたちふどき)」である。
今回は楽天市場でお取り寄せ。しゃれたコバルトブルーの紙箱に金文字で「常陸風土記」の金文字。中に小箱6個が収められていて、消費税込み2530円。1個当たり400円弱。手書きの手紙が添えられていた。細やかな気遣い。
猛暑なので、冷蔵庫で1時間ほど冷やしてから、温かいコーヒーでいただく。エアコンは28度に設定。
プラスティックの器から、デリケートに揺れる本体を取り出し、しばしうっとりと眺めてから、菓子楊枝で切る。
中からようやく真っ白い求肥餅が現れる。
口に運ぶと、ほろほろと崩れ落ちそうな、柔らかく炊かれた大納言小豆の濃縮感のある風味がふわりと広がってくるのがわかる。
ちょっと驚くのは、小豆の形がくっきりとあるのに、柔らかさが凄い。
甘さは抑えられていて、小豆の美味さが極限まで引き上げられている。
餡作り職人の技術の高さが伝わってくる。
柔らかな求肥餅との絶妙な結婚が、食べるこちら側にもストレートに伝わってくる。
とろけるような余韻が舌の上にしばらく残る。
置いてきぼりにされた気分。
あっという間に2個食べてしまった。
「あも」と確かに似ているが、一棹作りではなく、一個作り。個人的な評価では「あも」よりも洗練されていると思う。圧倒感は「あも」の方があるが。
気になってつい電話取材してしまう。
「あずきは北海道産きたろまんを使ってます。砂糖は上白糖とグラニュー糖を季節によって使い分けてます」
たまたま電話口に出た感じのいい女性スタッフは、7代目の女将さんだった。失礼しました。あんこの神様の存在を感じる。
きたろまんは大粒の小豆で、ふくよかな風味が特徴。
「常陸風土記」は7代目のお父さん(6代目)が考案したようだ。
先代6代目は若い時に京都の老舗和菓子屋で修業し、鹿島に戻って、6代目を継いだとか。
京都の美味の遺伝子が鹿島の土壌に見事に根付いているということになる。京都に負けない上生菓子も作っていて、常陸一宮・鹿島神宮の神様も喜んでいるに違いない。
目をつぶると、この一個で、和菓子のロマンが時空を超えて頭上で行き交いする。
京都と鹿島の点と線。あんこのきらめき。
コロナでストレスが溜まっているが、お取り寄せもそう悪くはない。
「丸三老舗」本店所在地 茨城・鹿嶋市宮中1-9-22
〈今回のお取り寄せ(楽天市場から)〉
2530円
代引き手数料 450円
合計 2950円