うぐいす餅の美味しい季節、である。
うぐいす餅だって? よーく考えたら、ウイットに富んだ美しいネーミングではないだろうか。
命名者はなんとあの豊臣秀吉で、作ったのは奈良・大和郡山市にある「本家菊屋」初代というのが定説になっている。本家菊屋は創業が天正13年(1585年)のスーパー老舗。現在26代目というから驚く。
数年前、あんこ旅で訪ねた時に、店先で賞味したが、大きさは現在のものよりもかなり小さかった(ウズラの卵大)が、つぶあんを求肥餅で包み、青きな粉をまぶした姿は、現在のものとほとんど同じだった。
味わいも上質で、秀吉の弟・秀長(大和郡山城主)が茶会でこれを出したとき、珍しい物好きの秀吉が大喜びし、色と形から「うぐいす餅とせよ」と命じた話が菊屋に伝わっている。多分、10個くらいぺろりと平らげたのではないか?
それから一気に435年後。
「こち亀」で有名な東京の下町・亀有の「葛飾伊勢屋本店」で、見つけたのがこのうぐいす餅(税別130円)。
秀吉が食べたうぐいす餅の5~6倍くらいの大きさで、同店の名物・豆大福や草大福、蒸しきんつばの間に春の予感を漂わせていた。
某局のディレクターとお茶会後に立ち寄ったので、遅い時間になった。
下町の和菓子屋の実力は侮れない。
うぐいす餅、豆大福、草大福、蒸しきんつばの順で買い求め、自宅で賞味した(賞味期限が本日中だったので)。
青きな粉と求肥餅の柔らかさ。
中はつぶあんではなく、こしあん。北海道産小豆とザラメを使用した自家製餡で、なめらかな舌触りと控えめな甘さ、それに塩加減のバランスがいい。
130円という下町価格も好感。本家菊屋のうぐいす餅が頂点なら、これはダウンタウンの愛すべき底辺と言えるかもしれない。
私の好きな世界でもある。
絶妙な上質の豆大福、よもぎの香りの草大福、そして特に好みの蒸しきんつばと食べ進んでいく。
たまらない黄金の時間。
うぐいす餅以外はつぶあん。塩気が強めで、それが素朴な小豆の風味を運んでくる。
赤えんどう豆、よもぎ、青きな粉・・・組み合わせ次第でそれぞれのあんこが自己主張を変えているのが面白い。
江戸時代、「伊勢屋、稲荷に犬の糞」と揶揄(やゆ)されたほど、伊勢屋の屋号が江戸中に点在していた。伊勢屋(ルーツは伊勢商人)は呉服商をはじめ、食事処・酒・醤油業にも広がったが、和菓子屋にも爆発的な伊勢屋ブームがあったようだ。
葛飾伊勢屋の創業は昭和40年(1965年)と浅い。現在2代目だが、初代の女将さんもご健在。北千住にも支店があり、足場を下町の下町(変な表現だが)に置いているのが、個人的には素晴らしいと思う。
江戸⇒東京の中心は下町だと思う。
「こち亀」の両さんも仕事中にこの店に買いに来ていた、そんな気がするのだった。
所在地 葛飾区亀有3-21-1