たまに飛び切り美味い甘納豆を食べたくなる。
花園饅頭の「ぬれ甘なっと」に目がないが、東京・吉祥寺の井の頭公園周辺をブラ歩き中に、懐かしい、いい店構えの和菓子屋さんを見つけた。
創業安政2年(1856年)「御菓子司 俵屋(たわらや)老舗」の日よけ暖簾が渋い。
上生菓子屋でもあるが、ここの目玉の一つが意外や甘納豆なのである。
甘納豆と言うと、フツーは小豆の甘納豆を連想するが、ここは手間暇かけた五色の甘納豆で、それらが小箱の中で鈍い蜜の光を放っていた。
甘納豆の宝石箱にも見えてくる。
予算の関係で、一番小さい箱詰め「五色詰め丸型」(税込み 1084円)を選んだ。そう安くはない。
・おたふく甘納豆(そら豆)
・大納言甘納豆(大納言小豆)
・うぐいす甘納豆(青えんどう豆)
・丹波栗甘納豆(和栗まるごと)
・斗六寸甘納豆(白花豆)
うきうきと家に持ち帰ってから、賞味することにした。
一番気に入ったのが「おたふく甘納豆」。すべて手作りで、仕上げるのに1週間以上かけているそうで、繰り返し繰り返し煮詰められた黒の密度が半端ではない。
柔らかなこってり感、それに濃厚な風味が噛んだ瞬間、きらきらと伝わってくる。スーパーでたまに買うおたふく豆とは次元が違う。
口の中で溶けていく感覚。
舌に残る濃厚な夢の跡(おいおい)。
丹波栗甘納豆の、雑味のない、きれいな余韻も気に入った。丸ごと一個、煮詰め方が職人芸。二つに切ったら、中央で蜜が光っていた。
大納言甘納豆、斗六寸甘納豆(ネーミングが京都)、うぐいす甘納豆の順で食べ進んだ。
すべて職人さんの手作業で、一粒一粒に汗と粋が詰まっているよう。添加物などは入る余地がない。グラニュー糖のまぶし加減もほどよい。
この「俵屋」のルーツが面白い。江戸ではなく、京都。それも初代は福知山で暖簾をスタートさせ、明治以降に東京に出てきたようだ。
かの虎屋も明治になってから東京に進出している。こうした「東下り(東上がり?)」の流れが当時はあったようだ。
「今、六代目になります」(女性スタッフ)。
上菓子とともに甘納豆を作り始めたのは明治に入ってからとか。
甘納豆は関西ルーツ説と江戸・東京ルーツ説がある。
どちらも幕末、安政から明治にかけて、「ぜんざいを煮詰めていて、偶然できた」としているのが面白い(諸説ある)。
最初は小豆で、それが白いんげん豆や栗、そら豆、花豆、青えんどう豆へと広がっていったようだ。
伝統的な小豆菓子もこのレベルまで来ると、その上品さと手間暇から上菓子に昇華していると思う。
脳の半分はおまん屋さんのあんこが占めている私だが、たまには浮気もしたくなる(笑)。
ほんの気持ちだけ安いともっといいのだが。
所在地 東京・武蔵野市御殿山1-7-7
最寄駅 JR吉祥寺駅から歩いて約7~8分ほど