そんなジョークを言いたくなる、あんこの和菓子と信州・松本市で出会った。
御菓子司「開運堂」の開運老松(かいうんおいまつ)である。1本税込み1101円。大きいので思ったほどは高くはない。
まずはそのしぶ~いお姿を見てほしい。
ロールケーキのように楕円形の長い、淡いこしあん色のスポンジ(?)。表面には老いた松の表皮ような、ひび割れがいくつか走っている。よく見ると、松の実が点々と埋まっている。
この凝り具合に和菓子職人の腕と暖簾の歴史が垣間見える。
中はどうなっているんだろう?
包丁で切ると、中心部には濃い小倉色の粒あんが詰まっていた。
試食すると、外側はスポンジだと思っていたが、違っていた。繊細な舌触りで、軽やかにいずこかへとスーッと溶けていく。和三盆のようなきれいな甘み。老松というより羽衣みたい。
中のつぶあんは濃厚で、二つが口の中で交じり合うと、口溶けのよさときれいな小豆の風味が絶妙なマッチングとなる。かすかにシナモン(ニッキ)の香りもする。
この味わいは何だ?
開運堂本店につい電話取材したくなった。あんこ好きのサガ。
「外側のスポンジみたいなのは北海道産大手亡(おおてぼう)なんです。白あんのこしあんです。卵の黄身も使って、黄身しぐれのように仕上げてるんですよ。中の粒あんは十勝産えりも小豆で、限定区域のものを使ってます」
すべてを解き明かすのは礼儀に反する。
「開運堂本店」は創業が明治17年(1884年)。それ以前は呉服業を営んでいたようだ。江戸時代から続く老舗なのは間違いない。菓子屋になってからは現在4代目。
立派な店構えで、和菓子をメーンに洋菓子も売っている。
渋茶を飲みながら、この精緻な「開運老松」を味わっていると、来年は何かいいことが起きそうな予感がかすかにしてきた。運が開けますように。柄にもなくそんな思いが口から出そうになった。まさか?
所在地 長野・松本市中央2-2-15
最寄駅 JR松本駅お城口から歩約5分