あんこ好きにとって、京都が西の横綱なら、東の横綱は浅草だと思う。
上菓子屋より庶民的な餅菓子屋が多い、というのもちょっとうれしい。
梅園の粟ぜんざい、亀十のどら焼き、徳太樓のきんつば、舟和のあんこ玉、長命寺桜もち、言問団子・・・と指折りきて、つい忘れがちになるのが、向島の「志”満ん草餅(じまんくさもち)」である。
面白い屋号で、読みづらいが、150年もこの屋号で通しているので、今さら変えられない(多分変える気もない)。
ここの「草餅」と「ささ餅」が見た目は地味系だが、飛び切りなのである。
餅の質はもちろんのこと、個人的な評価では、どちらもあんこの美味さがスカイツリーを超える、かもしれない(気持ちが入り過ぎて、表現がヘンになってしまったが)。
明治2年(1869年)創業。現在4代目。元々は隅田川沿いの茶店で、渡し船のお客を相手に草餅を出して、それが評判を呼び、現在も小さく白い暖簾を下げている。テイクアウトのみ。ほとんど店舗を広げない、というのも今どきの店とは一線を画す。
創業当時からの目玉が「草餅」(よもぎ餅)で、あん入り(1個 税込み145円)をまず食べてみる。
よもぎの若芽だけを手作業で選り分け、丁寧に煮込み、搗(つ)きたての餅と合わせる。自家製のこしあんを手包みする・・・この職人芸が約150年も守られている。
添加物などは使用していないので、賞味期限は「本日中です」。
経木(きょうぎ)を解くと、口に入れる前から、よもぎのいい香りが匂い立つ。
餅の柔らかさと伸びが素朴で、手づかみで噛んだ瞬間、中のこしあんが3倍太ゴチックで波のように押し寄せてくる。
このこしあんの美味さに驚く。渋抜きを抑えた濃い甘さで、塩気とのバランスがとてもいい。ありそうでないあんこ。
いくら言葉で表現しようとしても追いつきそうもない。素朴な洗練とでも言っとくか。
もう一品、「ささ餅」(1個 同145円)はつぶしあんで、それがたっぷり、かぐや姫のように笹に巻かれている。こちらも3倍太ゴチックでガブリ寄ってくる。
艶やかなつぶしあんの下には真っ白な、キメの細かい羽二重餅が隠れている。驚きの構成だと思う。
口の中のあんこ天国。
小豆は北海道十勝産を使用(多分えりも小豆)。
あんこが苦手な人には理解できないとは思うが、正直、ため息の連続で、食べ終えるのが惜しくなるほど。
オーバーな表現になっている自分に驚く。
もとい。これほどのよもぎ餅は、私の食べた中では奈良・葛城市「中将堂本舗」のよもぎ餅くらいしか思い浮かばない。頭を振りふり、記憶を辿り続ける。
所在地 東京・墨田区堤通1-5-9
最寄駅 東武スカイツリーライン曳舟駅 歩約12分