豆大福の名店と言えば、西は京都「出町ふたば」、東は護国寺「群林堂」があまりに有名だが、その他にも「おっ」と言いたくなる豆大福が探せば結構ある。
東京の古本街・神田神保町の和菓子処「文銭堂(ぶんせんどう)」の豆大福もその一つだと思う。
有名どころと違うのは小粒なこと。だが、山椒は小粒でも・・・の格言どおり、これがスグレモノで、1個230円(税込み)と安くはないが、その豆へのこだわりと洗練度は名店に負けていないと思う。
昭和24年(1949年)創業。すずらん通りに店を構え、「銭形平次最中」を目玉にしているが、上生菓子のレベルも高い。
餅粉がたっぷりかかった豆大福を備前の皿に載せる。黒々と目立つ赤えんどう豆のこだわりが見て取れる。京都の和菓子通友人が「東京の豆大福はダメ。赤えんどう豆が柔らかすぎる」と一刀両断していたが、その言葉はこの豆大福には当たらない。
我が家に持ち帰って、小さめの豆大福を賞味する。幸せの時間。
餅の柔らかさと伸びやかさ。手にくっつきそうになるほど。赤えんどう豆の数がかなり多い。形がしっかりしているのに、ふくよかに炊かれている。ほんのりと塩気がいい風味とともに口中に広がる。
中のあんこはつぶしあん(曜日によってはこしあん)。全体が小粒なのに、ぎっしりと詰まっている。おそらく北海道産えりも小豆で、砂糖はザラメだと思う。
こってりとした濃厚なつぶしあんで、黒糖の香りもする。それが絶妙なプラスアルファを生んでいて、あんこの風味を邪魔しない。
職人の腕が冴えている、と思う。
塩気の効き方は「東京のあんこ」の系譜に位置している。
小粒だって悪くはない。豆大福界の小さな巨人、と表現したくなった。
神保町界わいには「亀澤堂」や「さゝま」などいい和菓子屋が多い。古本屋街を散歩して、ふと餅菓子を買う。これはあんこ好きにとっては、ある種、無上の楽しみではある。
所在地 東京・千代田区神保町1-13-2