あんパン好きにとって、小田原は避けて通れない。
美味いあんパン屋さんが多いからだ。
老舗のいいパン屋さんの隠れたメッカでもある。
中でも一番人気は「守谷製パン」。
いつ行っても行列が絶えない。
絵にかいたような、街の素朴なパン屋さん。
パンを焼くいい匂いと白衣のパン職人さん。奥からジャムおじさんが出てきそうな雰囲気がどこかなつかしい。
あんパンは一個160円(税込み)。クリームパンやジャムパン、甘色、食パンなど種類も多いが、何といってもあんパンがダントツ人気。焼く数も多い。
高さのある丸い形と焼き色がとてもいい。表面のテカり。手に持つとずしりと重い。パンのいい匂いが立ち上がってくる。うっすらとあんこが透けて見える。
それだけで期待がふくらむ。
二つに割ると、中からつぶしあんがヌッと現れる。その驚くほどのぎっしり感。
素朴に美味いあんこ。甘さがかなり抑えられている。北海道産小豆の風味がさわやかでさえある。塩気もほんのり。
パン生地は時間が立つとパサパサしそうだが、焼き立てなので、ふくよかなあんことの相性がいい。
昭和のよきあんパン、だと思う。
創業40年以上とのことだが、小田原には大正10年(1921年)創業の老舗「柳屋ベーカリー」や明治20年(1887年)創業の「角田屋製パン」もある。
どちらも質の高いあんパンを作っている。
悲しいことについ約一か月前の3月31日、角田屋製パンが暖簾を畳んでしまった。どうやら後継者がいなかったことが理由のようだ。約130年の歴史が幕を閉じるのはつらい。
その分、比較的歴史の浅い守谷製パンにかかる期待が大きくなる。
だが、とあえて言いたい。
小田原城内で賞味していると、小田原に住む年配のおばさんたちがこう言った。
「あら、これって守谷のあんパン? 随分小っちゃくなっちゃったわね。昔はもっと大きかったわよ」
栃木・佐野市「ナカダパン本店」の名物あんパンも昔より小さくなってガッカリさせられたばかり。
老婆心だとは思うが、どうか原点を忘れないでいただきたい。
所在地 神奈川県小田原市栄町2-2-2
最寄駅 JR小田原駅東口歩約2分