東京で一番古い甘味処は人形町「初音(はつね)」というのが定説。
ここのあんこがこれまた絶品なのである。毎日毎日、雪の日も雨の日もこしあんと小倉あん2種類を銅釜で炊く。
創業が天保8年(1837年)というから驚く。和菓子屋としてはもっと古い老舗もいくつかあるが、甘味処としてはここが最古参らしい。
当時は歌舞伎江戸三座のうち中村座と市村座がこの近くにあった(その後火事で浅草に移転)。「初音」の初代が大の歌舞伎好きで、「義経千本桜」に登場する初音鼓から店名にしたと言われる。
この一帯は一大歓楽街でもあったので、おそらく創業当時は「おしるこ屋」だったのではないか。
ここで定番の一つ「あんみつ」(税込み 700円)を食べた。
どこか江戸の面影を残す店内。江戸紫の器に納まったこしあん、二色の求肥(ぎゅうひ)、桃、みかん、さくらんぼ、赤えんどう豆、その下の寒天・・・。
寒天も含めてほとんどが素材にこだわった手づくりの自家製。こう言っては何だが、全体として見た場合、ファンの多い神楽坂「紀の善」や上野「みはし」よりも私の個人的な評価は上。好みの問題かもしれないが。
何よりもこしあんがいい。きれいな小倉色。雑味のない瑞々しいこしあんで、口に入れた途端、なめらかな、いい小豆の風味が立つ。渋抜きをしっかりとしているのがわかる。甘さと塩気の「いい塩梅」。コクもある。小豆は北海道産を使用しているようだ。
塩気が強いのは、この洗練が「江戸・東京のあんこ」であることを証明している。
黒蜜と白蜜を選べるが、私は3回に2回は白蜜を選ぶ。あんこの風味をストレートに感じるからだ。
甘い時間はあっという間に終わる。七代目女将が入れてくれた熱いお茶を飲みながら、しばしの間浮世を離れて、こしあんの余韻に浸りたくなった。