桜もちの美味しい季節、である。
ニッポンはええのう、としみじみ思える季節でもある。
京都は道明寺、東京は桜もち。
使う材料が米粉と小麦粉の違いだが、どちらも大好きなので、選択に困る。
今回は桜もち。
その頂点に君臨するのは、向島「長命寺桜もち」というのが大方の見方だと思う。
だが、たまたま日本橋にある江戸風菓子司「日本橋長門(にほんばしながと)」の「さくらもち」を賞味する機会があり、その想いが変化してしまった。
あまりの美味さに「ほう~」が出てしまった。
この店の歴史が凄い。八代将軍・徳川吉宗の時代(享保年間1716~1735年)に神田須田町で創業。戦禍を受け、戦後、現在の日本橋に移転、その歴史は約300年という。現在なんと14代目。
長命寺桜もちの山本屋と同じくらいの歴史。
塩漬けにした桜の葉っぱは2枚(山本屋は3枚)だが、その見事な美しさ。
皮は淡い桜色で、極端に薄い。そのもっちり感が手に持っただけでわかる。
中のこしあんが秀逸で、甘さと塩気のバランスがとてもいい。長命寺桜もちよりも味わいが濃いと思う。
使用しているのは北海道十勝産小豆だが、あんこ職人の腕は、京都「松壽軒(しょうじゅけん)」に劣らないな、と思えるほど。さらりとしたきれいな濃厚。
上生菓子屋なので、ほとんどがその日中に食べなければならない。
本当は江戸切り羊羹を買うつもりだったが、「売り切れ」だった。
仕方なく(?)「さくらもち」を買ったのだが、値段が表示してなかった。
品のいい女将さんに「おいくらですか?」と尋ねると、
「生菓子はすべて350円です」
長命寺桜もちでさえ1個225円。粋を極めるにはそのくらいの出費は覚悟しなければならないということ?
「1個からでも大丈夫ですよ」
見栄を張らず、取りあえず3個だけ買って、一足早い桜の粋を味わったのはその4時間後だった。美味いけど痛い。