「むし鹿の子」というのは珍しい。
それが絶品とくれば、あんこ好きにとっては、とても見逃せない。
その、いわば「あんこの夢」が東京の中心、茅場町永代通りにあるとしたら? かつては江戸の中心だったところでもある。
そこだけセピア色の「御菓子処 田川堂」。
創業は明治らしいが、詳しいことはわからない。「百年以上は経ってますよ」(ご高齢の女将さん)。
敷居の低さとショーケースに並ぶ小豆の生菓子が江戸⇒東京の匂いを放っている。下町のいい和菓子屋の系譜が目の前にある。
「むし鹿の子」(一個税込み140円)に目が釘付けになった。見事な大納言小豆と中のこしあん。それを葛(くず)で包んで、丁寧に蒸したもの。
時代物の扇風機の風を受けながら、「むし鹿の子」を賞味する。エアコンはない。今どき、東京のど真ん中にかような和菓子屋が存在していることに驚きながら。
口の中で大納言小豆の風味がつむじ風となる。
素朴できれいなこしあんがそれに混じり合う。ほどよい甘さ。あまりの美味さに言葉が出てこない。
手土産に3個ほど持ち帰る。
日本橋からこのあたりにかけては、どら焼きの清寿軒や梅花亭本店など、江戸から明治にかけてのいい老舗が残っている。
後日、かき氷のあずき(400円)も食べてみた。あんこの美味さがここでも確認できた。
これだけのあんこ菓子の老舗を知る人は意外に少ない。
後継者がいるのか、つい気になってしまった。
所在地 東京・中央区新川1-2-7