週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

水運の町の大親分まんじゅう

 

編集長東京オリンピックの次は饅頭オリンピックだよ。あんこ好きはゆるーくこの指に止まってほしい」

 

あん子「そんなオリンピック、聞いたことない(笑)。ここんとこ饅頭が多いから変だと思ってたけど、編集長の頭の中ではオリンピックのつもりだったのね」

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編集長「あんこワールドに休みはない。で、今日はいい和菓子屋さんを見つけた。饅頭が5~8種類、それも添加物ゼロ、昔ながらの蒸籠で蒸かした、めちゃウマの饅頭を取り上げたい。茨城県代表にしたい」

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あん子江戸崎まんじゅう、ね。確かに見た目も味わいもメダルを上げたくなるわ」

 

編集長こしあんのボリュームと美味さがレベルを超えてる。それに皮のしっとりもっちり感。ヘンな言い方だけど、牢名主(ろうなぬし)のような、ちょっと他では見ない饅頭だと思うよ」

 

あん子「牢名主って・・・ホメ言葉? 店の人が聞いたらどう思うかなあ。大親くらいがいいと思うわよ。でも、確かに(笑)。小判形で大きい。黒糖を使ったような色・・・テカリ方、中のこしあんの美味さ、ぎっしり感。編集長が興奮するのもわかる気がする」

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編集長「今回はその江戸崎まんじゅうと他に品のいい、おきゃんなレモン饅頭、吹雪饅頭、茶饅頭(利休)、塩気の強い麩饅頭も並べてみた」

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あん子利根川水運で栄えた江戸崎町(現在は茨城・稲敷市)のもうすぐ創業約百年の和菓子屋さんね。よく見つけたわね、そんな場所で。蛇の道は何とか(笑)」

 

編集長「地元では昔から人気の店なんだよ。現在3代目。この3代目が伝統と進取を取り入れたいい仕事をしてるんだよ」

 

あん子「能書きより中身でしょ? 船が出るわよ~。早くしないと、無観客になるわよ~(笑)」

 

【本日のセンター】

江戸崎まんじゅうvsレモンまんじゅう

 

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江戸崎は霞ヶ浦の南に位置し、どうやら戦国時代は城下町で、江戸時代以降は利根川水運で栄えた、歴史のある地名。江戸へと通じる物流の拠点だったために「江戸崎」という地名になっていたようだ。

 

今では過日の面影はないが、この由緒ある「江戸崎」という地名を饅頭に冠したのが「青木菓子店」。本日の主役。

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創業は昭和4年(1929年)。現在3代目。紺地の長暖簾が印象的な和菓子屋さん。

 

饅頭類のラインナップが素晴らしい。

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目玉は「江戸崎まんじゅう」で、創業当時からの作り方を頑固なまでに続けている。

 

昭和37年には農林水産大臣賞を受賞している逸品で、1個の舌代が105円(税込み)とコスパ的にも庶民的。

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添加物ゼロなので、賞味期限は短い(2~3日ほど)。

 

1個の重量は52グラムほど。大きさは85ミリ×50ミリ×25ミリほど。

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小判の形で、裏側から見ると、中のあんこのあまりの透け方にそそられる。あんこ好きにとっては拝みたくなる濃密な世界。

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茶色なので、黒糖を使っているのかと思ったら「いえ、使っていません。昔からの蒸籠でじっくり蒸かしてると、こういう色になるんですよ」(店のスタッフ)。

 

饅頭は蒸したその日に食べるのが一番おいしい。自宅に帰ってからすぐに賞味した。

 

皮のしっとり感ともっちり感に軽く驚く。

 

中のあんこはこしあんで、この量が半端ではない。

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なかなか出ない深い藤色。

 

北海道産小豆を銅鍋で毎日炊いていて、こしあんも自家製というのは暖簾の力かもしれない。つまり365日手間ひまを惜しまない。

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皮のもちもち感と雑味のないこしあん絶妙という言葉を通り越していると思う。

 

とても素朴だが、とっても洗練された美味さ。

 

「こりゃうめえ・・・饅頭オリンピックならメダル級だぜ」と江戸弁でつぶやきたくなった。

 

伝統と進取。その進取代表として「レモンまんじゅう」(1個 105円)をマットに上げてみた(何のマットだ?)

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レモンまんじゅうなんて、あまり聞いたことがない。

 

きれいなレモン色を割ると、白あんが現れた。

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レモンの酸味と風味が新鮮で、これは生レモンを使っているのかもしれない。

 

中の白あんは北海道産インゲン豆のこしあん。円形で重さは55グラムほど。結構大きい。

 

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しっとりとしたきれいな白あんで、江戸崎まんじゅうのような「うめえ」は漏れないが、これは単に好みの問題かもしれない。

 

上品できれいな饅頭。

 

この2つの饅頭だけでこの店の実力がほの見える。いい職人のいる店だと思う。

 

【本日のサブ】

麩まんじゅう(1個 同160円)

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 〈寸評〉青のりの麩まんじゅうで中はなめらかなこしあん。笹に包まれた見た目は上生菓子の麩まんじゅうだが、口に入れると、麩皮の塩気の強さに「へえー」となる。こしあんは上質。塩気が好みの別れるところ。私は江戸崎まんじゅうほどの感動はなかった。塩の強さはこの地が水運の町だったことが関係しているのかもしれない。

 

吹雪まんじゅう(1個 同105円)

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〈寸評〉中の粒あんのボリュームが凄い。ほんのりと塩気。つぶあん好きにはたまらない。重量は55グラム。

 

利休(1個 同105円)

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〈寸評〉黒糖を使った茶まんじゅう。重量は52グラム。中はこしあん。お茶菓子にいい。

 

「青木菓子店」

所在地 茨城・稲敷市江戸崎甲3125-1

最寄り駅 JR常磐線土浦駅からバス(約1時間)。

 

 

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傑作だよ、ブルーベリーの「餅ベリー」

 

店頭で写真を見て、うーん、となってしまった。

 

期待半分、クエッション半分の「うーん」。

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白あんに地場のブルーベリーが丸ごと4~6個。それを求肥餅が大事そうに包んでいる。

 

かぐや姫状態の大粒のブルーベリー。ユニークな試み。

 

「餅ベリー」と表記されたそのメニュー写真。

 

これってフルーツ大福の一種だろうな、そう軽く考えて、もう一品、すご顔の「ド田舎饅頭(ドいなかまんじゅう)」(税込み1個 100円)とともに買ってみた。

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こちらはドンピシャ好み。「ド田舎」にあんこハートがくすぐられた。

 

饅頭界のブス猫かな?

 

「生ものなので、冷蔵庫に入れて、かならず今日中に食べてください」(女将さん)

 

女将さんは「餅ベリー」の方を気にしているようだった。

 

ド田舎饅頭も賞味期限が「今日中」(添加物を使っていない証)だったので、早めに宿泊先のホテルに戻って食べることにした・・・。

 

・賞味のあんあん時間

 

編集長「予想外の美味さだったよ。求肥餅と白あんは珍しくもないが、新鮮なブルーベリーをそのまま入れるという発想は、下手すればミスマッチ。だから、半信半疑だったけど、食べてみたら、あまりに美味いので、今日のセンターにしたくなったよ」

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あん子「私にナイショで旅に出て、ずるいわ(笑)。私にはお土産もない。ブルーベリージャム好きなので、食べたかったなあ」

 

編集長「賞味期限がその日中という制限付きで、しかも今の季節だけ。あん子クンには悪いと思いながら、一人でこっそり試食会(笑)。そう怒らないでくれ。わかったよ、来年、来年・・・期待せずに待っててくれ」

 

【本日のセンター】

フルーツ大福の傑作か「餅ベリー」

 

群馬・渋川市赤城町で大正11年創業(1922年)の和菓子屋「荒井商店」。遠くに赤城山が見える、ローカルのほのぼの感がストンと広がる。

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赤城田舎饅頭で知られる、近隣では人気の和菓子屋さんだが、ローカルの伝統と新しい試みをクロスさせた、店主のチャレンジ精神に敬意を表したい。

 

店主は3代目で、毎朝赤鍋であんこを炊いている。こしあんも自家製。砂糖は基本的に上白糖を使用しているようだ。

 

「餅ベリー」は3代目のアイデアで、近くに友人が営むブルーベリーの農園があり、そこの新鮮なブルーベリーを使うことを思いついたようだ。

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小ぶりで、表面にはほんのりと餅粉。

 

求肥餅なので、指を触れると、マシュマロのように柔らかい。地場の餅粉を手練りしているかもしれない。きめの細やかが見て取れた。

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切ると、大粒のオーガニックなブルーベリーが現れた。5~6個ほど。

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北海道産白いんげん豆の自家製白あんこしあん)が包み込むようにぎっしり。

 

餅の柔らかさと純度が「本日中に」を実感させてくれる。

 

白あんは甘さがかなり抑えられていて、かすかに塩気も感じた。

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ブルーベリーはそのままなので、半分「どうかな?」と疑いながら、口に含んで噛んだ瞬間、ブルーベリーの甘酸っぱい酸味が口の中で小爆発した、ようだった(オーバーかではない)。でもそんな感じ。

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求肥餅も白あんもこのブルーベリーを引き立てるためにだけ存在しているような。

 

広がる鮮烈な余韻にしばし浸りたくなった。

 

いつのまにかクエッションの半分がどこかへ飛んでいった。

 

これは傑作ではないか?

 

一個250円はまんじゅう類が100円前後の中で、安くはないが、食べ終えると、「これは高くない」と合点した。上生菓子の世界の番外編に置きたくなる逸品だと思う。

 

【本日のサブ】

饅頭界のブス猫「ド田舎饅頭」

 

この店の目玉は「赤城田舎饅頭」だが、店の中で異彩を放っていたのが「ド田舎饅頭」だった。

 

一日50個しか作らないとか。

 

田舎饅頭の優に2倍の大きさ。いわゆる炭酸まんじゅう重曹で発酵)で、北関東ではこの種のまんじゅうが多い。

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黄土色でごつごつした外観。1個100円(税込み)という恐るべき安さ。

 

女将さんによると「早い時間に売り切れてしまいことも多い」とか。わかる、わかる。

 

訪れたのがたまたま正午前だったためか、4~5個ほど残っていた。ラッキーと思いたくなった。

 

フツーの「田舎饅頭」(税込み 85円)も買い、食べ比べしてみた。写真左がド田舎饅頭、右が田舎饅頭です。

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「ド田舎饅頭」は「甘くない」と表記されていたが、甘さをかなり抑えているだけで、ホワンとした素朴なつぶあんの甘さはある。日持ちしないのはそのせいかもしれない。

 

渋切りもかなり抑えている。

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ごらんの通り、あんこがはみ出てきそう。土下座したくなる(笑)。

 

皮のもっちり感とつぶあん(というよりつぶしあん)が確かにドが付く田舎饅頭で、上州の空っ風の中でたくましく育った、いい意味ではるかな土の匂いを感じる。

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小豆は地場ではなく、北海道産を使っているとか。

 

この店の定番「田舎饅頭」はフツーの大きさで、こちらも炭酸まんじゅうだという。賞味期限は2~3日ほど。

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つぶあんは柔らかく炊かれていて、ほどよい甘さで、皮は「田舎」という表記を外したくなるほど。洗練された饅頭だと思う。

 

美味さだけで言ったら、田舎饅頭の方が優れていると思うが、「ド田舎」のド迫力は捨てがたい。

 

他にも落花生を使ったホワイト饅頭やゆで饅頭もあり(本格的な練り羊羹もある)、この店が伝統を守りつつ、新しいことにも挑戦していることがわかる。

 

ローカルでいい和菓子屋さんに出会うと、特にうれしくなる。

 

「赤城田舎まんじゅう」のノボリが夏の青空にひるがえっていた。沁みる。

 

所在地 群馬・渋川市赤城町敷島415-5

最寄り駅 上越線敷島駅からすぐ

 

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伊香保の黒宇宙「黒蜜水ようかん」

 

猛暑の東京五輪とコロナ感染者急拡大で、冷静でいることが難しい。

 

こういうときは、水ようかん! と声を小さくして言いたくなる。

 

画家・竹久夢二と縁の深い、群馬・伊香保温泉で素晴らしい水ようかんに出会った。

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竹久夢二は大のお汁粉好きだったようで、京都・二年坂の「かさぎ屋」の店主がたまたま訪れた私に祖父から聞いた話として、「隅っこの方でよく愛人の彦乃さんとお汁粉を食べていたようです」と恵まれない時代の隠れたエピソードを話してくれたことがある。

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伊香保にある白亜の竹久夢二記念館(上の写真)がとても印象に残ったので、つい脱線してしまった(失礼)。

 

話を水ようかんに戻したい。

 

石段の最上階からほど近い、ロープウェイ不如帰駅(ほととぎすえき)そばにいい雰囲気の「寿屋(ことぶきや)」がある。

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ここの「黒蜜水ようかん」に恋してしまった。

 

ごらんの通りの黒々とつややかにテカる逸品。

 

カップもあるが、ここは「流し込み」(一箱 税込み1300円)をおすすめしたい。

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素材は北海道産小豆、黒蜜、黒砂糖、寒天のみ。

 

「添加物は使ってないので、冷蔵庫に入れて、今日中に食べてくださいね」

 

いい雰囲気で作業するご高齢の女将さんが、そう念押しした。ほのぼの。

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創業は昭和38年(1953年)、現在二代目

 

その二代目がもう一つの名物「湯の花饅頭」を仕込みながら、許可を取って写真を撮る私に向かって「つぶあんはもちろん、こしあんも自家製なんですよこしあんも自家製は実は少なくなってきてるんです」と、いい和菓子職人のお顔で声をかけてくれた。

 

自宅に戻ってすぐにクーラーボックスから取り出し、賞味することにした。

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コーヒーもいいが、あまりに暑いので、氷にミネラルウオーターをそそぐ。

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「流し込み」の大きさは20センチ×12センチ。厚みは3センチほど。重さは635グラム

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何という黒さ。こりゃ宇宙の漆黒だよ、と表現したくなる。

 

黒蜜がしたたるように端からにじみ出ている。よく見ると、ほんの少し気泡が見え、手作りの、昭和の香りがするよう。

 

宇宙は怖いが、こちらの宇宙は蜜の味(笑)。

 

黒糖の香りが鼻腔に来る。

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包丁をすっと入れて、白の磁器皿にのせ、口に運ぶ。

 

形がしっかりしているのに、寒天の配合が絶妙で、噛んだ瞬間、口の中で驚くほどきれいに溶けるのがわかる。

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形があるのに形がない。

 

いろんなことを忘れる、数秒間の冷たい美味

 

コロナのことも、あいつのことも、うまくいかなかったことも、すべての腹立たしいことも(数秒だけだが)。

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表現がヘンだが、黒い羽衣のような余韻がしばらくの間、舌に残る。

 

黒糖というより黒蜜感が強めで、かなり甘めだと思う。

 

秩父「松林堂」の黒糖水羊羹を思い出した。

 

伊香保秩父が線でつながる。地図にはないあんこライン(笑)。

 

もう一品、この店のオリジナル「寿々虎(すずとら」(1個 同110円)もご紹介したい。

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珍しい虎豆を使ったあんこをカステラ生地で包んだもの。

 

形が鈴の形で、柔らかく炊いた虎豆が独特の風味を生んでいる。インゲン豆よりもえぐみがある。

 

甘さを抑えていて、カステラ生地との相性は悪くない。

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人形焼きの虎豆版のような感じかな。

 

伊香保には元祖温泉饅頭「勝月堂」や老舗「清芳亭」があるが、ここにもいい和菓子職人がいることを実感した。

 

伊香保の隠れた名店、だと思う。

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と、ここまで書いて、タネ明かしをしちゃうと、当初、この店を訪問する予定はなかった。

 

たまたま水沢うどんの老舗の店主(なんと17代目)から「伊香保で泊まるなら、いい和菓子屋があるよ。石段からちょっと離れたところにある『寿屋』。いい店だよ。あんこ好きならぜひ行ってみて」とサジェストされたのがきっかけ。

 

ネットもいいが、最終的には生の現地情報が一番、と改めて思うのだった。

 

所在地 群馬・渋川市伊香保町557-7(駐車場有)

最寄り駅 伊香保温泉バスターミナル駅

 

 

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ご神水わらび餅vs紫の金つば

 

編集長「猛暑とコロナをしばし忘れたい。とっておきの和菓子をご紹介したい」

 

あん子香取神宮参道の老舗和菓子屋さんでしょ?」

 

編集長「バレてた? 下総国の一宮というだけで、古代史好きの人ならかしわ手だよ。創建が神武天皇の時代で、とにかく杜に一歩足を入れると、神気のひたひた感が凄いんだ」

 

あん子「能書きはいいわ。先行きましょ」

 

編集長「その参道に老舗和菓子屋『岩立本店(いわだてほんてん)』がある。超が付くパワースポットの和菓子屋というだけで惹かれるけど、その香取神宮のご神水(地下水)を使ったわらび餅がかなりの味わい。お世辞ぬきに美味だったよ」

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あん子「観光スポットでもあるから、話半分として、編集長のレポートを聞いてあげるわよ(笑)」

 

編集長「まあ、待ちなさい。もう一品、この店で面白いきんつばを見つけたんだ。香取市の名産紫いも」のあんこを使った紫いも金つば。草餅や味噌まんじゅうも食べたけど、個人的には紫いも金つばに軍配を上げたくなった」

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あん子「ふーん、じゃあ今週のセンターはその二つ?」

 

編集長「苦しい選択になったけど、そういうこと。古代から続く神水を使った和菓子なんて、そうはないぞ。心して聞くように」

 

【今週のセンター】

手練りわらび餅vs紫いも金つば

 

「御菓子処 岩立本店」の創業は明治28年(1895年)。横から見ると、建物の古さがわかる香取神宮参道には草餅を出す店(料理屋兼任)が数店ある。いわば茶店でもある。こしあんで包んだ草餅(だんご)が美味い。

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だが、昔から和菓子屋一筋というのはこの岩立本店だけ。なので、格式の高さを隠せない。間口の広い入り口は観光客にも受けるように、おばさんスタッフが数人、声がけしてもいる。

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そこにグレーの作務衣スタイルの和菓子職人さんがいた。

 

たっぷりのきな粉に作り立ての手練りわらび餅を鮮やかな手つきで小分けにしていく。注文に応じて、箱詰めもしてくれる。

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聞いてみたら「私で6代目です」

 

見てるだけで楽しい。

 

「ご神水仕立て」のわらび餅。幾分グレーっぽいのは多分、わらび粉をふんだんに使っているからではないか。

 

きな粉との自然な色がコラボしている。

 

一番小さな箱(税込み 700円)を一箱買い求め、「できれば本日中に食べてください。美味さが違います」

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茶席用の和菓子も作っているそうで、いくつか餅菓子や生菓子も食べてみたくなった。

 

簡素な旧式のイートインもあったので、そこで草餅つぶあん入り)、みそまんじゅう(白あん+味噌)、紫いも金つば、どらやきを食べることにした。

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個人的に「これ美味いなあ」と感じたのが紫いも金つば」(税込み 130円)。

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外見が東京・日本橋の「榮太樓総本舗」の「名代金鍔(なだいきんつば)」によく似ている。ひょっとして、参考にしたのかもしれない。

 

あちらは小豆あんだが、こちらは紫いもあん。

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手の匂いのするムラのある焼き色とのコラボが美しい。

 

黒ゴマが7~8粒ほど乗っている。その香ばしさもある。

 

皮と紫色のあんこがいい意味で想像を裏切った。

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紫いもはこの地の名産だが、さつまいもという先入観があるので、期待半分だったが、しっとりとした滑らかなあんこで、食感はさつまいもという感じがしない。

 

むしろきれいなこしあんのよう。

 

ほどよい甘さと塩気。

 

6代目によると、紫いも自体は甘みが少ない。それが和菓子に向いているそう。

 

砂糖は上白糖を使用しているようだ。

 

夏場は氷で冷やしたら、美味さが増すのではないか。

 

その約5時間後。自宅に着いてから、ご神水仕立ての手練りわらび餅を食べてみた。

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一箱の重さは290グラム。

 

冷蔵庫で1時間ほど冷やしてから、蓋を取ると、ややオレンジ色がかったきな粉(国産)がたっぷり、ほとんど隙間なく覆っていた。色が濃いので少し炙っていると思う。きな粉のいい香り。

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ガラスの器に取って、食べると、わらび餅の柔らかさと香ばしいきな粉が押し寄せてきた。わっ。

 

わらび餅は形がしっかりあるのに、プニュプニュ感が凄い。

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舌の上ですーっと蕩ける。

 

わらび粉のきれいな風味と手練りの伸びやかさがひと味違う感じ

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わらび餅には水あめが混ぜてある? ほどよい甘さが絶妙。

 

黒蜜をかけるのも好みだが、なくても全然美味い(むしろないほうがいいかも)。

 

神水きれいな風味と長い余韻に一役買っているのではないか。

 

 

あん子「私は紫いも金つばは食べてないからわからないけど、このわらび餅は確かに美味い。色がグレーっぽいのは本わらび粉を使っているからかな」

 

編集長「オリンピックを見ながらこれを食べたら、気分も晴れるだろうね。冷たーくしてね(笑)」

 

あん子「開会式まで持たないのが残念ね。あんことかアイスクリームとも合うかもね。オリンピック期間中にまた行って買ってきてよ」

 

編集長「考えとくよ。コロナに感染してなかったらね」

 

御菓子処「岩立本店」

・所在地 千葉・香取市香取1896

・最寄り駅 JR成田線香取駅から約2キロ

 

 

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絶品「百年酒饅頭」と水ようかん

 

編集長「酒まんじゅうの名店を見つけたよ。首都圏では東京・荻窪の『高橋』や日光『湯沢屋』など、うめえ~と声が漏れる老舗があるけど、まさかの場所で出会っちゃったんだ」

 

あん子「またもったいぶっちゃって。この前大騒ぎしてたこと、もう忘れてる(笑)。埼玉・本庄市児玉町でどぶろくから手作りしている和菓子屋さんのことでしょ?」 

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編集長「まず皮がすごい。酒粕で代用する店が多い中、糀(こうじ)を使ってどぶろくを作り、何日もかけてじっくり発酵させ・・・酒種をつくる。それでふくらませる。詳しいことはわからないけど、手間暇を惜しまずに昔ながらの本造りをしてる」

 

あん子「聞いただけで大変そうね。それよりあんこはどうなの?」

 

編集長「当然のごとく自家製のこしあん。淡い藤色でしっとりと上質にまとめている。あまり教えたくない店だよ」

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あん子「ホントは教えたいくせに。見え見えよ(笑)。『和菓子 くろさわ』って店名も渋いわね。でも今どき貴重なお店なのは感じるわ」

 

編集長「あん子クンもわかってきたね。正直に言うと、さほど期待せずに行ってみたんだ。まず建物の壁面にツタの絡まった、グレーの昭和な店構えにほおーってなった。さらに店内のシンプルな造りに私のあんこセンサーがピコピコ反応したよ。水ようかんも美味そうだった。この店は只者じゃないってね」

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あん子「はいはい、舟が出るわよ~(笑)」

 

【本日のセンターです】

百年続く元種の驚き「本造り 酒まん」

 

1個100円(税込み)。それを5個買い、友人の酒蔵5代目にも5個、別に包んでもらった。5代目は酒饅頭が好きで、群馬・前橋にあった伝説の名店(すでに廃業)の酒饅頭の美味さをことあるごとに私に話していた。

 

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その10分ほど前、どんな味わいか、確認したくて、1個だけ別買いし、店主の了解を得て、蒸し立てを店内で試食してみたら、酒種のいい香りとともに、皮のふっくら感と弾力と密度にちょっと驚いた。中のこしあんもきれいな甘さで絶妙だった。

 

ほっぺたが落ちかかるほど。心の中で「こりゃ本物だよ」と叫んでいた。

 

友人の酒蔵の5代目がどんな顔をするかも楽しみだった。

 

いい気配を漂わせる店主は4代目で、創業は「100年くらい前だと思いますが、はっきりした創業年はわからないんですよ」と率直に話す。

 

「おじいちゃんの前の代まではわかってるんですけどね」

 

話の途中で、4代目が「これ、見ます?」百年以上前から代々続く糀(こうじ)を板場から大事そうに持ってきてくれた。

 

それがこれ。

 

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めったにない経験で、糀の酸味の含んだいい香りがふわりと鼻腔に来た。

 

しばらく話すうち、この店が「全日本和菓子品評会」で全日本優秀賞を受賞してることがわかった。

 

埼玉のローカルにこんな店が隠れていたとは(別に隠れていたわけではない)。

 

「できれば本日中に食べてください」

 

4代目店主のひと言で、早め(といっても夕方になったが)にわが家に持ち帰って、賞味した。

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表面の見事なツヤが何とも言えない。あまりに自然な白。糀の香りがふわりと部屋中に広がる。

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計ってみたら重さは58グラム。直径が60ミリ、高さは38ミリほど。

 

日光「湯沢屋」の酒饅頭と同じくらいの大きさ。

 

噛んだ瞬間、皮の素朴なもっちり感が来た。職人の手の匂いのする洗練も感じる。歯ざわりがとてもいい。

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中の自家製こしあんはほんのり塩が効いている。。

 

淡い藤色の上品なこしあん

 

素朴に洗練された皮と絶妙にコラボしていると思う。

 

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小豆は北海道産、砂糖は白ザラメ。添加物などは一切使用していない。

 

期せずしていい店と出会ったことは間違いない。

 

後日談。酒蔵の5代目からメールが来た。

 

「とっても美味かったです。特に皮が。昔食べた前橋の幻の名店もこんな感じでした。なつかしい味わいでした」

 

お世辞を言わないお方なので、しかも酒蔵の社長なので、手土産に持って行った甲斐があった。

 

その後、その5代目がつくった「花菱 無濾過(むろか)純米酒で乾杯した。ほろ酔い。

 

あんこの神様にかしわ手。

 

【本日のサブ】

水ようかんのレベルも高かった

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あん子「この大きさと中身で100円とはコスパがすごいわ。下に敷いてある葉っぱがビニールなのがちょっと残念だけど、この内容でこの値段を考えると、仕方ないわね」

 

編集長「大きくて、まず色がいい。透き通るような濃い藤色。あんこの美味さは酒饅頭でわかってるけど、舌ざわりが上質だね。寒天に少し葛粉も加えているようだ」

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あん子「形はしっかりしているのに、口に入れた瞬間、すっと歯が入り、口どけがとってもいい。塩加減もたまらない。編集長が自慢するのも仕方ないわ」

 

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編集長冷蔵庫に1時間ほど冷やしてから食べると、コロナも蒸し暑さもストレスもどっかに飛んでく。日本人に生まれてよかった、ホントそう思いたくなる」

 

あん子「埼玉水ようかん界の小さな大谷翔平・・・そう言いたいんでしょ? 顔に書いてあるわよ(笑)」

 

編集長「ファッションに気を使うよりも中身で勝負ってところがね。これがわかるようになったら、あん子クンも一人前・・・に近くなったね(笑)」

 

あん子「すぐに図に乗る。あんこの神様が笑ってるわよ」

 

 

「和菓子 くろさわ」

・所在地 埼玉・本庄市児玉町児玉2512

・最寄り駅 JR八高線児玉駅

 

 

             

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老舗和菓子屋の「あんドーナツ」

 

NHK大河ドラマ「青天を衝け」で盛り上がる埼玉・深谷。その一角にある老舗和菓子屋「糸屋製菓店」は以前から気になっていた店。

 

蔵造りの店構えが印象的な和菓子屋さんだが、「糸屋(いとや)」という屋号なので、ルーツは「糸屋」だったかもしれない。

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創業が明治41年(1908年)、現在4代目深谷ではよく知られた和菓子屋さんで、丁寧に皮を取った小豆の呉(中身)を使った茶色の煉り羊羹と最中(もなか)が昔からの目玉。

 

明治から続く独特のスタイルはちょっと感動もの。

 

タイムスリップしたような、薄暗い店内は、一歩足を踏み入れた瞬間、京都の「亀末廣」を思い起こしたほど。

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隅々まで神経が行き届いている。

 

日本にまだこういう和菓子屋さんが存在していることにウルウルしてしまう。

 

しかもローカルのダ埼玉に(ダはよけいだ)。

 

不思議なことに、渋い店内の一角になぜか不釣り合いな「あんドーナツ」がある。ン?って感じ。

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1個150円(税込み)。午前中には売り切れることも多い逸品で、私も二度ほどフラれてしまった。

 

今回三度目にして、ようやくゲットした。なので、今回のセンターには本来なら脇役の「あんドーナツ」を置こうと思う。TPO的には珍しいあんドーナツ。

 

【本日のセンターです】

あんドーナツの秘密はポルトガルにある?

 

ふわふわ系のあんドーナツとは一線を画している。

 

ごらんの通りのごつごつした外観。

 

食感がまるで違う。

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サクッとした、ビスケット生地のような歯触りと小麦の風味。

 

どこかバタ臭い素朴なドーナツとも言える。中は自家製つぶあん。私が知っているドーナツとは見た目も食感も違う。

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沖縄のサーターアンダギーとも似てるし、ポルトガルの伝統揚げ菓子とも似ている気がする。中国経由の匂いもする。

 

店の人に聞いたら、「昔から代々同じ製法で作っています。ルーツはよくわかりません」とか。

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砂糖をまぶしている姿はポルトガルの揚げ菓子をも連想させる。

 

おそらく先代か先々代があんこを入れて売りだしたところ人気を呼んだと考えられる(勝手な推測だが)。

 

ドーナツ生地の小麦と卵の風味。つぶあんの濃厚な素朴。

 

どこか懐かしい、昭和モダンな(死語だが)あんドーナツ

 

ヒビの入ったごつごつした外観が武州のイメージとも合致している。

 

今どきの味わいではないが、昭和を思いながらティータイムに食べたくなる逸品だと思う。

 

【本日のわき役(本来は主役ですが)】

 

翁羊羹(おきなようかん) 1折 650円

翁最中(おきなもなか) 大1個 230円

すだれ羊羹 1個 150円

 

ごらんの通り、翁羊羹は虎屋などの煉り羊羹とは色彩が違う。淡い茶色。

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最初見たとき、白あんを使った煉り羊羹かと思ったほど。下諏訪「新鶴本店」の塩羊羹(こちらは緑色っぽい)を連想してしまった。

 

店に聞いたら、「いいえ小豆を使ってます。ただ、小豆の皮を丁寧に取っているんですよ」とのこと。「新鶴本店」とほとんど同じ昔ながらの製法のようだ。

 

小豆(北海道産)と砂糖と寒天のみで練り固めている。

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控えめな甘さと歯にくっつかない、品のいい練り羊羹だと思う。

 

数日置いたら、底が白く糖化していて、そのじゃりじゃり感が私には好ましい。

 

翁最中は小と大があり、大は約95グラムもあった。

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能面の翁の皮だね。パリッとした、しっかりした皮だねで、手で割ると、中の粒あんの洗練がとてもいい。

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いわゆる小倉あんで、こしあんと大納言小豆をブレンドしていると思う。寒天も少し加えているかもしれない。

 

小豆の艶とこしあんの透明感が光にかざすと、深い陰影を放射するよう。

 

あんこの美味さが際立つ。

 

甘さは控えめで上質にまとめている。

 

すだれ羊羹は珍しい羊羹で、翁羊羹をすだれ状に切って、陰干ししたような、糖化した固めの表面がザラっとしていて、その歯ごたえが面白い。

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甘さはかなり淡い。

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熱海「本家ときわぎ」の「常盤木」(自然乾燥させた棒状の羊羹)とよく似た乾燥羊羹で、この店の中ではサブ的な存在だと思う。

 

老舗和菓子屋さんだが、ある種の駄菓子的な、昔ながらのセピア色の世界もしっかりと繋いでいる。

 

渋沢栄一の出身地は街並みといい、残っている暖簾といい、往時の活気は失せているが、どこかひと味違う気がする。深谷シネマ」もすぐ近くにある。

 

所在地 埼玉・深谷市深谷町8番5号

最寄駅 JR深谷駅から歩約7~8分

 

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ミラクルか「薔薇(ばら)のおはぎ」

 

編集長大谷翔平の活躍に刺激されて、今回ご紹介するのはラクルなおはぎだよ。薔薇(ばら)のおはぎ(笑)」

 

あん子「はじめっから外してる(笑)。足利ですごいおはぎ見つけた、って騒いでいたわね。花のおはぎって確かに珍しい。ぶっ飛びすぎかも(笑)。アートを超えてるわ」

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編集長「はじめ見たときびっくりしたよ。分類的にはおはぎと上生菓子きんとんをくっつけた創作おはぎということになると思うけど、単なる受け狙いかもな、と半信半疑で食べてみたら、実に美味い。発想的も技術的にもすごい、としか言いようがない」

 

あん子ベースはこしあんのおはぎなのよね。その上にきんとんのような花びらが咲いてる、そんな感じだわね」

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編集長「たまたまピンク、赤、黄、白の4種の薔薇おはぎがあったけど、今回ゲットしたのはピンクと黄の2種類だけ。外観と中身にちょっと疑念があったので、2種で十分と考えたんだ。隣にあった『お花のだんご』もびっくりもので、そっちもあわてて追加したんだ。予約が必要とかだったけど、運よく置いてあった。ま、日頃の行いだね(笑)」

 

あん子創業が明治元年(1868年)というのも古都・足利ならではで、ながーい歴史がある和菓子屋さんね。中心部からずいぶんと離れてたんでしょ? こういう店を見つけるなんて、今日だけは編集長を尊敬したくなった(笑)」

 

編集長「うーん、困った(汗)。ホントのことを言うと、織物会館で小冊子を見たんだよ。だんごの美味い店で紹介してあった。で、行ってみたらびっくり、伝統と創作が融合した和菓子屋さんだった。薔薇のおはぎはそこで偶然見つけたんだ。あと1時間遅れていたら、売り切れてて、出会うことはなかったかもしれない。あんこの神様のイタズラかもなあ(タメ息)」

 

あん子「前置きが長すぎ。舟が出ちゃうわよ。早く食レポしてよ。センターは薔薇のおはぎでしょ?」

 

編集長「京都だってきっと驚くぞ。足利あんこ界のはんなり新星、バッターボックスに立っていただこう」

 

【本日のセンター】

創作おはぎ「ピンクの薔薇vs黄色の薔薇」

 

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「かすてい羅」の古い看板もどこか京都の匂いのする一軒家の和菓子屋さん。

 

「松風屋本店」の屋号が松の木に隠れている。

 

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進取の気性が勝っているのか、古くていい店構えだが、ノボリなどが今どきで、どこか不思議な印象。これってどうなんだろう?

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わびさびではなく、はんなりが近いかもしれない。足利のはんなり。

 

どら焼き、豆大福、水饅頭など定番の生菓子にまじって、「薔薇のおはぎ」(1個 税込み270円)が咲いていた(と表現するしかない)。

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バラをわざわざ漢字で表記してある。目が点になってしまった。

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若女将は4代目で、姉妹で伝統を守りつつ、創作和菓子の世界に挑んでいることがわかった。

 

ベースのこしあんおはぎがスグレモノで、上に載っている薔薇の花びらは白あんに着色(ビーツやかぼちゃ、抹茶など自然の材料を使用)し、一枚一枚手作業で精緻に重ねている。

 

洋菓子の手法を応用したそうで、緑色の葉っぱまで手抜きがない。

 

「北海道産十勝産小豆を使い、砂糖は白ザラメです。私は白ザラメが一番だと思います。あんこはもちろん自家製ですよ」

 

「本日中にお召し上がりください」

 

大急ぎで自宅に戻ってからすぐにコーヒーを淹れ、賞味することにした。

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目と舌がときめいた。何というなめらかなあんこ。

 

こしあんも薔薇のきんとんも予想を上回っていた。

 

特にベースのこしあんおはぎ。

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高レベルのみずみずしいしっとり感。いい小豆の風味。

 

中のもち米の透明感ともっちり感。

 

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ほんのりと塩気があり、それが京都の上生菓子との違いだと思う。

 

黄色よりもピンクの方が人気があるそうで、基本的には同じ味わいだが、なぜか気持ちが華やぐ気がする。

 

十分な満足度。

 

しばらく余韻に浸りたくなった。

 

もし「おはぎオリンピック」があったら、個人的には栃木代表に押したい。

 

見た目はミスマッチかもしれないが、そのくらいの驚きと予想外の幸福感

 

それにしても足利でかような創作おはぎに出会うとは、大谷翔平の活躍を楽しみながら、目の前の小さなミラクに目と舌が向かうのだった。

 

【本日のサブ】

こんな進化系花だんごってあり?

 

パイナップルの串あんだんごと水まんじゅうも買ったが、希少という意味でサブメーンには「お花のだんご」を取り上げたい。これも初めて見るレアもの。

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2本セットで300円(税込み)なり。

 

ベースはこしあんだんご。写真でご覧の通り、小さいうえに、上には薔薇のおはぎよりもさらに小さい花びらが乗っていて、雪のように細かいココナッツがかかっていた。

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精緻な創作だんご。こちらも洋菓子のパティシエの手法を取り入れているとか。凝り過ぎの気配もないわけではない。

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上新粉の餅は柔らかく、こしあんと白あんの花びらが絶妙と言いたくなるほど融合している。食べるのがもったいないな、と思えるほど(本末転倒だよ)。

 

この技術力、どこで修業したのか気になって、4代目姉妹に聞いてみたら、「和菓子の専門学校には行ってません。父(3代目)から教えてもらいました」とか。

 

プラス洋菓子の手法。

 

直伝の和菓子職人の挑戦ということになる。

 

コロナ禍に揺れ続ける2021年、こういう店と和菓子職人に出会えたこと、個人的にはやっぱりミラクルだと思う。あんこの神様の・・・。

 

夏越しのお祓いをしててよかった。

 

「松風屋本店」

所在地 栃木・足利市猿田町1-31

 

〈注意点〉購入するには予約が必要。薔薇のおはぎは5個単位で、賞味期限が本日中。お花のだんごは夏場はお休み。秋から再開するそう。

 

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