週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

赤福よりレア素朴「こしあんだんご」

 

これはこしあん銀河系あんこ餅好きには、一目置きたくなる「おだんご」だと思う。

 

伊勢名物「赤福」とよく似ているが、赤福ほど有名ではない。

 

とにかく見ていただきたい。

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折にぎっしり詰まったこのおだんご、というよりあんころ餅(?)を初めて見た時、心がざわめいた。

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5年近く前、台風18号で鬼怒川が決壊した時、茨城・常総市が大きな被害を受けた。たまたまボランティアのはじっこで汗を流していた時、世話好きの町のおばさんが持ってきてくれたものがこれだった。

 

見た目は素朴な、あまりに素朴なあんころ餅だったが、ひと口で一瞬にして疲労が吹っ飛んでしまった。疲れが美味さを倍増させたかもしれないが、こしあんと柔らかな餅の美味いこと。ホントにほっぺが落ちてしまった(心のほっぺだが)。

 

「春子屋のおだんごですよ」

 

おばさんから店名を聞き出し、とりあえずメモしておいたが、諸事情でその後訪ねる機会を失っていた。

 

コロナ禍の中、今回ようやく訪問が実現した。

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添加物不使用の手作りのため、賞味期限は「本日中に召し上がってください」と完全武装の女性スタッフ。聞くと、女将さんだった。見事な熟練のワザで、自家製のこしあんを小さくちぎっただんごにこすり付けるように素早く乗せていく。その繰り返し。

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店の創業は昭和3年(1928年)で、現在3代目。女将さんはその奥さんで、現場を仕切っているようだ。

 

関東のローカルで「90年以上こしあんだんご一筋」というの凄い。

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一番小さな折り(18個入り 税込み540円)を買い求め、その約7時間後に自宅で5年越しのご対面となった。あんビリーバブルな再会。

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折を取ると、再びざわめきの世界。こしあんの色に引き込まれそうになる。今回は疲労はない。

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一見すると赤福ほど形は洗練されていないが、雑然としたどこか田舎臭い、素朴なこしあんが、口に入れた瞬間、いい風味ですっくと立ちあがってきた。

 

田舎娘がくるりと湯上り女に変化したような。

 

素朴な上質と表現したくなる。

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北海道十勝産小豆の風味と、甘すぎない、あんこの粒子を感じる舌触り。うめえ・・・という言葉が自然出でてくる。塩は加えていない。

 

砂糖は上白糖を使っているようだ。

 

驚きべきはだんご(餅)のきれいな柔らかさ。地場産コシヒカリ上新粉を蒸かし、搗(つ)きあげ、少し冷ましてから小さくちぎって丸める。

 

餅粉も加えているのではないか、と思えるほど柔らかく伸びる。

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それがこしあんの美味さと絶妙に合う。創業以来のあんこ愛が滲み出てくるような。

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見た目は雑にも思えるほど素朴だが、それが研ぎ澄まされた熟練の世界で、クセになる美味さを意図的に隠しているのではないか。

 

人も見かけによらないが、あんこの世界も見かけによらない。

 

気が付いたら、半分なくなっていた。甘いため息。

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これって伊勢の赤福、圓八のあんころ餅(白山市)、門前仲町の深川餅、中将堂よもぎ餅(葛城市)・・・個人的には庶民派こしあんのキラ星に負けないだんごの隠れ逸品だと思う。

 

コロナ禍の中の希望のあんこ・・・そうつぶやきながら、残り半分に手が伸びるのだった。

 

所在地 「春子屋本店」茨城・常総市本石下3054

最寄駅 関東鉄道常総線石下駅から歩約12分

 

 

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コロナも退散?初夏の「麩まんじゅう」

 

 茨城、岐阜、愛知、石川、福岡の特定警戒5県の緊急事態解除が明らかになった。

 

リスクはあるが、まずはめでたい。

 

なので、久しぶりのあんこ旅

 

今回ピックアップしたのは茨城・坂東市の老舗和菓子屋「創作和菓子 すずき」

 

以前から目を付けていた店。創業百年ほど。現在4代目

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そこで見つけたのが「麩まんじゅう」(税込み 160円)だった。

 

あんこセンサーがビビビと反応した。

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想像以上の上質で、みずみずしい笹に包まれた、ある種かぐや姫の予感・・・。

 

中のあんこは?

 

「創作和菓子」と銘打っているが、バラエティーに富んだ饅頭類や大福、それに人気ナンバーワンという「かりんとまん(かりんとう饅頭)」など、いずれも小ぶりだが、歴史と上生菓子の気配がある。しかもローカル価格。心惹かれたので、それらを買い求めて、約5時間後、自宅で一人品評会を開くことにした。

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何よりも賞味期限が短い「麩(ふ)まんじゅう」から。

 

透明な包みを取ると、いきなりみずみずしい熊笹の香りが鼻先をくすぐる。

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初夏の「たまらん!」。

 

黒文字で留められた熊笹を取ると、湧き水から抜け出てきたような、麩まんじゅうが現れた。まるで水の小さな女神だよ。

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生麩と白玉粉(?)を丁寧に練り上げた、手で触れると、くっつきそうな、羽二重餅のようなもっちり感。なめらかな上質の舌触りをしばし楽しむ。

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中のあんこはこしあんではなく、粒あんだった。

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とろりとした、皮まで柔らかいつややかな粒あんで、甘さを抑えた味わいは本物の和菓子職人の気配を感じさせるに十分だと思う。あ・り・が・た・い。ワンランク上の冷たい美味。暑い脳内に一瞬の涼風。

 

4年ほど前、裏千家の千玄室さんが京都のミニ講演で「ありがたい、の本当の意味は漢字で書くとよくわかる。有難い、なんですよ。あること自体が難い、ことなんです」と話していたことを思い出した。深い一滴だと思う。

 

小豆は北海道産、砂糖は「グラニュー糖です」(4代目)。塩は使っていないようだ。

 

関東のローカルで、地道にこういうすぐれた、いい仕事を続けている店と出会うのはあんこ旅みょうりに尽きる。

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饅頭は「かりんとまん」(120円)、「柚子饅頭(ゆずまんじゅう)」(100円)、みそ風味の「長寿まんじゅう」(110円)、「黒糖饅頭」(100円)。それにつぶあん大福」(100円)。

 

いずれも小ぶりで、柚子饅頭(粒あん)と長寿まんじゅう(こしあん)の皮には「つくね芋を加えているんですよ。いちいち表記していませんけど」とさり気ない。つまり薯蕷饅頭(上用饅頭)の要素も忍ばせている。

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粒あんこしあんも上質で、雑味がない。塩気がわからないほどほんのり。この舌代が信じられない。

 

「かりんとまん」はかりんとう饅頭がブームになる以前、12年ほど前から作っているという。「テレビが取材に来て、ブームの火付け役になった」とこちらもさり気なく話す。黒糖は表記していないが波照間産。

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揚げ立てが一番美味い、とおっしゃるので、早めに食べたら、確かに皮のカリカリサクサク感がすごい。中のきれいなこしあんとよく合っている。

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素材選びから作り方まで、隠したがる店が多い中で、聞くとすぐに答えてくれる。

 

東京の老舗和菓子屋で修業後に、この地で4代目を継いでいる。奥さんと二人三脚で毎日朝早くから地道に上質の和菓子を作り続けている。伝統をしっかり押さえながら、新しい試みにもチャレンジし続けているのもすごいことだと思う。

 

「もう40年になります。疲れました(笑)」とざっくばらんに話すが、娘さんが5代目修業中で、コロナが追い打ちをかけるように、いい和菓子屋さんが苦しんでいる中で、これは一筋の明るい光だと思う。

 

「5代目」と言葉にした瞬間、白い歯がこぼれた。

 

所在地 茨城・坂東市辺田1521

最寄駅 東武アーバンクライン愛宕駅から茨城急行バス

 

 

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「銚子VS西新井」対極の今川焼

 

緊急事態が延長されたので、今回はたい焼きよりも今川焼、と渋~く行ってみたい。

 

今年の前半戦で、へえーと印象に残ったのが、あまりに対照的なこの二品。

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上の写真が千葉・銚子で食べた「さのや」の、野暮ったい、見ようによっては牢名主のような今川焼。チラ見しただけでひれ伏したくなる、そんな気がしませんか?

 

下の写真が東京・西新井大師「甘味 かどや」のきれいな今川焼。下町の小粋な、湯上り美女のような、そんな形容を付けたくなってしまった。

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どちらも歴史のある今川焼で、皮もあんこも同じ今川焼とは思えないほど対照的。コアなファンが多いことが共通している。

 

まずは「さのや」今川焼を賞味してみよう。

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黒あんと白あんの2種類(それぞれ税込み150円=テイクアウト)あり、店内で食べると3円高くなる。

 

2個くっ付けたくらいの武骨な高さと焦げ目のムラ。まだら模様。

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驚きのごつごつした外観だが、油感のある皮の野暮ったさもただ事ではない。

 

うどん粉をストレートに感じる、オーバーに言うと、むにゅっとした歯ごたえ。

 

黒あんのあんこ(つぶあん)は甘めで、どろりとしていて、いい意味で洗練とはほど遠い。塩気も効いていて、銚子沖の漁師が「うめえ」と言いながら、頬張るイメージが浮かぶ。

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あんこのボリュームもかなりのもの。

 

白あんはインゲン豆で、こちらもあまりに素朴な、洗練を超えた味わい。甘さは控えめ。みりんの隠し味も感じる。

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個人的な感想では絶品というより、絶無といいたくなる今川焼だと思う。ハマるとクセになる予感が詰まっている、別の表現をすると、深海魚のような今川焼

 

「銚子名物 創業明治40年」と書かれた昭和な店構えも悪くない。

 

現在4代目。店主と女性2人、計3人で忙しく焼いている光景はこの店が人気店ということを改めて感じさせる。

 

もう一品。西新井大師参道にある「かどや」の今川焼は対極的で、きれいなきつね色の正統派今川焼で、それも下町の洗練を感じさせる。

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ペンキ塗りの、本物の昭和レトロの建物が絵になる。「ALWAYS 三丁目の夕日」の世界。「今川焼」のノボリ。

 

軽食堂がメーンだが、今川焼目当てのファンも多い。私もその一人。

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一個が120円(税込み)。

 

ふわりとしたピュアな皮。中の粒あん「北海道産100%」を強調しているだけのことはある。砂糖は多分白ザラメ。これが格別な味わい。

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いい小豆の、吹き上がるような風味が素晴らしい。ありそうでなかなかない、絶妙なあんこだと思う。なめらかさと塩気のほんのり感。雑味のないきれいな余韻がしばらく舌に残る。

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コロナが気になって、電話すると、「今川焼はGWで終わりました。夏はかき氷に切り替わりますが、今年はこういう状況なので、どうなるか。いずれにせよ緊急事態宣言が明けてから、になると思います」と困惑の声が返ってきた。

 

「かどや」の創業は大正11年(1922年)ごろ。現在4代目女将、5代目も板場に立っている。

 

元々は飾り屋(花屋さん)で、甘味軽食を始めたのは戦後の昭和30年(1955年)から。今川焼はその当時からのもの。

 

こういういい店も困らせるコロナめ。西新井大師の開祖・弘法大師の神秘パワーで退散させる日も近い、今に見ておれ、と思いたい。

 

〈所在地〉

「さのや」千葉・銚子市飯沼町6-7 最寄駅=銚子電鉄観音駅から歩約7~8分

「かどや」東京・足立区西新井1-7-12 最寄駅=東武大師線大師前駅から歩約3分

 

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あやめだんごと3種のおはぎ

 

コロナで遠出できないので、とっておきの和菓子をご紹介したい。

 

尾張名古屋をあんこ旅していた時のこと。

 

串だんご好きの私に甘い情報が入った。

 

それが餅菓子屋「筒井松月(つついしょうげつ)」の「あやめだんご」だった。

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ネットで調べる。正直に告白すると、それほど美味そうには見えなかった。

 

日暮里の羽二重団子や築地の茂助だんごなど、有名過ぎてコスパ的にはどうかな、というレベルではないか(個人的な辛口評価だが)。

 

私にとってこれまで食べた串だんごの中でナンバーワンはかつて東京・築地にあった「福市だんご」(すでに廃業)だが、現存する中では北千住「槍かけだんご」、浅草「桃太郎」のあん団子コスパも含めてさん然と輝いている。

 

期待は裏切られるためにある。

 

なので、過剰な期待をせずに、「筒井松月」へ。

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昔からそこにある、セピア色の下町の餅菓子屋さんの地味な外観。

 

私的には好きな世界だが。

 

プラスティック製の緑色の串のあんだんご瀬戸焼の大皿にほとんど直立に並べられていた。素朴だが、シンプル過ぎる。

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実際に見ても、まだ美味そうには見えない。1本230円(税込み)も「ちょっと高いかな」の印象。

 

おはぎが美味そうだったので、あんこときなこ、それにごま(それぞれ税込み150円)を買い求め、「あやめだんご」もついでに付けてもらった。

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「生ものなので、本日中にお召し上がりください」。3代目だという女将さんがややぶっきら棒な口調で、付け加えた。

 

ところが。

 

夕暮れ時、ホテルに戻って、自室で賞味したら、この先入観が大間違いだったことに気づかされた。

 

藤紫色のこしあんが5個の団子の両面にべたっと付けられていて、どう見ても職人の手のぬくもりが見えない。

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それが。

 

口に入れたとたん、清流のようなみずみずしさが走った。ちょっとオーバーかもしれないが、ホントにそんな感覚だった。

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こしあんのあまりの美味さ。雑味のない、甘さをほどよく抑えた、塩気との見事な融合。いい小豆の風味がそよ風になっていた。

 

これは思った以上にすごい。

 

濃厚ではなく、きれいな湧き水を思わせるこしあん

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さらに見かけとは違って、餅の柔らかさが想像以上だった。まるで羽二重餅で、きれいな余韻を残してすーっと伸びる。

 

翌日確認すると、餅はもちろんのこと、こしあんまで自家製で、北海道十勝産小豆を使用、砂糖はザラメだそう。

 

おはぎ3種もやや小ぶりだが、あんこ(つぶあん)の美味さが光った。

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半殺しの餅のみずみずしさ。京都の今西軒によく似た味わいで、高レベルのおはぎだと思う。

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店は創業が昭和3年(1928年)。歩いて30分ほどのところに老舗和菓子屋「菊里松月」(大正12年創業)があるが、別経営で「初代が菊里さんと同じところで働いていたと聞いてます」(3代目女将)とか。

 

暖簾分けの一種だと思う。

 

期待は裏切られるためにあるのではない、と思い直す。

 

反省を込めて。「人は見かけによらない」はあんこにも当てはまるのかもしれない。

 

所在地 名古屋市東区筒井2-2-4

最寄駅 地下鉄桜通線車道駅下車 歩約6分

 

 

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熱海の奥座敷、ふしぎな羊羹2種

 

あん子だってコロナが怖い。

 

だけど、負けない。

 

休業を余儀なくされている和菓子屋さんも多い。

 

今回取り上げるのは、熱海の老舗羊羹屋さん。

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羊羹(ようかん)の名店として、知る人ぞ知る「本家ときわぎ」。

 

創業が大正7年(1918年)、現在4代目。本煉羊羹以下6種類の羊羹のレベルは高い。わらび餅やうぐいす餅など生菓子も人気で、すぐに売り切れる。

 

千と千尋の神隠し」の舞台のような宮造りの古い店舗にまず圧倒される。

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コロナが猛威を振るう前に訪ねたが、ここで見つけたのが、屋号をそのまま使った「常盤木(ときわぎ)」(6本入り 税込み600円)だった。

 

スティック状にした羊羹だが、わざと自然乾燥させていて、そのために表面が白く糖化している。

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これがたまらない。

 

あの「羊羹の町」佐賀・小城市の「むかし羊羹」を思わせる珍品で、昔ながらの煉り羊羹のDNAを感じさせるもの、だと思う。

 

4代目のアイデアのようで、製法は伝統に乗っかっているが、デザインが新しい。羊羹をスティック状にするなんて。フツーはあり得ない。

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表面のジャリジャリした歯ざわり、それでいて中は羊羹そのもの。北海道十勝産小豆の風味が寒天と煮詰まっていて、風化ギリギリの余韻を舌の上に残す。

 

控えめな甘さ。

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本来は4種類あるが、私が行ったときはほとんど売り切れていて、本煉り1種しかなかった。

 

江戸寛政年間に日本橋で誕生した本煉り羊羹が、熱海でこういう進化を遂げていることに生みの親・喜太郎も泉下で驚いているに違いない。

 

不思議なことに、「本家ときわぎ」の向かい側に、小ぶりだが似た建物の「常盤木羊羹店」が暖簾を下げていた。ひらがなと漢字の違いも気になる。

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同じ店か、暖簾分けか、大いなる謎を感じて、本家に尋ねたら「暖簾分けではありません。2代目の義弟が勝手に開いた店です。素材も作り方も違います」と素っ気ない。

 

老舗の和菓子屋ではよくある、ルーツは同じでも「まったくの別会社」ということかもしれない。

 

このあたりは深入りしないことにしている。

 

その「常盤木羊羹店」の目玉が「鶴吉羊羹」で、こちらも8種類ほどあるようだ。

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一番人気の「橙(だいだい)」(1棹 税込み1300円)を買って、その後自宅に帰ってから賞味してみた。

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熱海特産のみかん「橙」を使ったフルーツ羊羹で、黒いモダンな箱を開けると、金色の銀紙(表が金で裏が銀)が見えた。サイズは150ミリ×37ミリと小ぶり。

 

包丁で切ると、きれいな橙色の煉り羊羹が現れた。手亡豆(白いんげん)に橙が練り込まれていて、柑橘系の濃い香りがすっくと立ってきた。

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半透明感と上品な甘さ。羊羹というよりも凝縮したゼリーのような印象。

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モンドセレクション2013銀賞というのも自慢のようだが、私にはここまで来ると、もはや羊羹ではなく、マーマレードの新しいスイーツと言った方が近い気がする。

 

泉下の喜太郎もこちらの進化にも驚いているのではないか?

 

コロナのクラスターは願い下げだが、羊羹のクラスタは歓迎したい。

 

熱海にはいい羊羹屋がしのぎを削っている。どちらもコロナになど負けない、と確信している。

 

所在地 静岡・熱海市銀座町14-1「ときわぎ本家」

最寄駅 JR熱海駅から歩いて約12分

 

 

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緊急登場「きんつば西の横綱」

 

緊急事態宣言から今日で8日目。考え方を変えて、自粛=引きこもり生活をそれなりに楽しむことにした。

 

その一つ。

 

ズバリ、あんこに浸る。

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あんこの女神(勝手にそう呼んでいる)杏ちゃんの動画を見て、心が洗われる。加川良「教訓1 命を捨てないように」を選んで生ギターで歌うなんて、この子、やっぱり只者ではない。画面左手には絵本を見る3歳の娘さんの後ろ姿。

 

あんこの天使、かもしれない。

 

今回は緊急事態特別編。ほっこり気分のまま、きんつば界のほっこりを取り上げることにしよう。

 

私的には東の横綱が浅草「徳太楼(とくたろう)」なら、西の横綱は大阪の「出入り橋きんつば屋」である。その北浜店。

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それがこれ。手のいい匂いのする絶妙きんつば、だと思う。

 

一皿3個で、360円(税込み)なり。イートインで食べる。

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とにかく焼き色がすごい。まだら焼き。皮のもっちり感にホーッ、となる。徳太楼の乳白色のきれいなきんつばとは別の世界。対極とも言える。

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透けて見えるたっぷりのあんこ。ドキドキ感。

 

そのあんこがとてもいい。柔らかく炊かれた北海道産大粒小豆とこしあんブレンドしたような、絶妙な配合で、控えめな甘さの中に小豆のいい風味が、渦を巻きながら春風となる。

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野暮と紙一重の皮と洗練されたあんこ。その対比が見事だと思う。

 

ほんのりと塩気が奥に控えている。

 

徳太楼のような寒天の多さは感じない。

 

味にうるさい大阪で「名代きんつば」を名乗るだけのことはある。

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「出入り橋きんつば屋」の創業は昭和5年(1930年)。現在3代目だが、この北浜店はそこから暖簾分け。3代目のお姉さん(妹さんかも)が約3年半前にオープンさせたもの。

 

面白いことに3代目のお兄さんは暖簾分けで船場「あずき庵」を開いている。

 

数年前にそこを訪ねたが、本店と同じ作り方で、味わいも美味さも同レベルだった。

 

熟練の、見事な職人ワザだった。

 

じっくりと炊いたあんこを一晩冷ましてから、翌日、四角く切り分ける。それを溶いた小麦粉にくぐらせてから、一個一個丁寧に焼いていく。

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北浜店も同じ手作業で、見てるのも楽しい。

 

「塩気がポイントなんですよ」(北浜店女性店主)

 

ほっこりとしたいい余韻。うれしくなって、帰り際、きんつば番付、西の横綱ですね」と言ったら、

 

「あらまあ、そうでっかァ」

 

パンダ顔(失礼)の女性店主が愛嬌のある目をまん丸くしてから、「また来たってや」と白い歯を見せた。

 

さすが食の街・大阪!

 

所在地 大阪市中央区平野町2-2-13

最寄駅 京阪線北浜駅から歩いて約3分

 

 

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どら焼き天国の限定「桜どら」

 

コロナで移動が制限されると、ドラえもんの顔が頭に浮かび、どら焼きを無性に食べたくなった。

 

どうしたわけか、聖シムラけんの残像も重なる。

 

どこでもドアがあったら、日本橋うさぎや人形町清寿軒、浅草亀十、池袋すずめや、東十条草月、霊岸島梅花亭・・・私がこれまで食べたどら焼きの横綱大関クラスの名店にすぐにでも飛んでいきたい。

 

ローカルにも味わい深いどら焼きを作り続けている店が多い。

 

どら焼きは不要不急を超えている。

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ラーメンの町、栃木・佐野で見つけたのが、バラエティーに富んだどら焼きを売りにしている「金禄(きんろく)」である。

 

浅沼店と堀米店があるが、今回訪ねたのは浅沼店。

 

個人的などら焼き番付東日本編では、関脇クラスに位置するが、ここの凄いのは7種類ものどら焼きを作っていること。

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「栗どら」(税込み238円)が一番人気だが、春限定(4月いっぱい)の「桜どら焼き」(同 173円)にあんこセンサーが反応した。

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あんこは白あん(手亡豆)で、つぶつぶの食感と吹き上がる風味、ほどよい甘さと塩加減、それに塩漬けした桜葉の香りが絶妙だと思う。

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目でも楽しめる。包丁で切り、断面を見ると、桜色がうっすらとにじんでいる。

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妙齢の美女が隠れている。そんな気配すらある。

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皮はきれいなきつね色。スポンジが効いていて、しっとりというより密度が強め。黄色味の強い地場の飛駒産卵を使い、一枚一枚ていねいに焼き上げている。

 

大きさは日本橋うさぎやとほぼ同じくらい。ズシリと重い。

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予算の関係で今回は4種類買い求め、自宅で味わったが、手焼きなので皮の焼き色の濃淡が少しづつ変化していて面白い。中のあんこの違いで、重量もそれぞれ。

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一番人気「栗どら」は国産の蜜煮した大栗と濃い目のつぶあんが素朴に合っている。あんこのボリュームも十分にある。皮の焼き色は「桜あん」より濃い。

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重さも113グラムある。

 

「バタどら」(同205円)はバターが多めで、口の中で濃いつぶあんと溶け合う感触が好みに近い。栗どらよりも気に入った。こちらは106グラム。

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店の創業は昭和44年(1969年)と比較的新しい。

 

現在2代目。ルーツは栃木市にあり、すでに店舗営業は止めている老舗和菓子屋で修業した初代が分家という形で佐野に店を構えた。「金禄」の屋号はその時新しくしたもの。

 

2代目は進取の気性に富み、フルーツ大福やスイートポテト「芋金」など新しい取り組みも成功させている。

 

小豆は手亡豆も含めて北海道十勝産にこだわり、小豆農家から直接仕入れている。

 

全体的に濃い目のあんこだが、砂糖は「グラニュー糖を使ってます」(2代目)。

 

その原点「どら」は初代から作り続けていて、中のつぶあんは皮の感触がしっかりある。つぶつぶ感がやや固め。甘さも濃い。重さは100グラム。

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洗練ではなく、素朴な、むしろ野暮ったいあんこだと思う。

 

今回は食べれなかったが、残りの3種類は「梅どら」「白どら」「餅どら」。

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一軒で7種類のどら焼きが楽しめる。首都圏でもこれだけの種類を作る和菓子屋はそう多くはないと思う。

 

ドラえもんがこの店を知っていたら、月曜から日曜まで、日替わりで食べに来たかもしれない。

 

所在地 栃木・佐野市浅沼町609-1

最寄駅 JR両毛線佐野駅または東武佐野線佐野市駅から約1.7キロ

 

 

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