週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

「ウイスキーと羊羹」試してみる

 

新型コロナウイルス症候群で気が滅入るので、本日は特別編(笑)。

 

テーマはお酒とあんこの恋愛

 

フツーに考えると、ミスマッチだが、先入観を捨ててみると、これが「案外イケるじゃん」に変わるのではないか?

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例えば、羊羹(ようかん)とウイスキー

 

今回は日光「吉田屋羊羹本舗」のひと口羊羹3種類(煉り、塩、大納言)を用意した。

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特別ゲストとして、豊橋「絹与(きぬよ)」の2色羊羹(久礼羽=くれは)との相性も試してみた。この結果は最後に。

 

ウイスキーは酒棚から「スーパーニッカ」(小瓶)と「ニッカピュアモルト 蔵出しウイスキー」を出した。基本的に今回はオンザロックで試すことに。

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あんこソムリエになった気分(笑)。

 

まず3種類の中で、もっともマッチしているかな、と感じたのは、「煉り」だった。

 

賞味の仕方は以下の通りです。

 

まず羊羹をひと口⇒それを味わってから、ウイスキーをゆっくりと流し込む⇒相性と余韻を楽しむ⇒それを繰り返す。

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煉りのきめ細やかさがオーク樽の芳醇な香りで消されるかと危惧したが、そうでもなかった。控えめな煉りの風味が、ウイスキーの猛烈な春一番の下で、しっかりと残っている感じ。このギャップが意外にいい。もちろん個人的な感想だが。

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塩と大納言も悪くはないが、予想に反して、煉りほどの相性の良さは感じなかった。羊羹のクセが少し強すぎて、ウイスキーがちゅうちょ。お互いに恋愛を嫌がっている印象。

 

ウイスキーと羊羹の組み合わせは、敬愛する作家の開高健がエッセイの中で書いている。羊羹は虎屋の「夜の梅」だったが(笑)。開高健の独特の感性と趣味の良さ(?)がよく表れていると思う。

 

お酒と和菓子の相性については、池波正太郎の方が達人の領域だったと思う。きんつばや饅頭など「あんこ好き」は筋金入り。

 

酒席の後、ふらりと神田・須田町の「竹むらに立ち寄って、お汁粉で仕上げを楽しんでいたという。

 

今回はウイスキー編だが、日本酒(辛口)や焼酎、白ワイン編も気が向いたときにレポートしたい。どうなることやら(ほろ酔い)。

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最後に「絹与」の「久礼羽(2色羊羹)」との組み合わせ。結論から言うと、これは別格だった。羊羹自体のなめらかな洗練と抑えられた甘みがピュアモルトと意外な相性を見せてくれた。ブランデーも合いそうだ。「ほう」の世界。

 

とりあえず結論。いい羊羹にはウイスキーを飲み込んでしまう包容力があると思う。

 

あんこの女神と酒神バッカスの出会い。

 

新しい組み合わせをこっそり楽しむのも、そう悪くはないと思う。甘い密会? 下戸には禁断の世界なので、取り扱い注意ですが(笑)。

 

 

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旬の草餅vs「ヨモギあんころ」

 

ぼちぼちヨモギの香り立つ季節。

 

あんこ好きにとっては、草餅(ヨモギ餅)のシーズン、と胸がピコピコする季節なのである。舌先のベルも鳴る。胃袋もわめく(ほとんどビョーキだよ)。

 

あんこ旅の途中で、その名店の一つに行ってきた。

 

尾張名古屋の庶民的な老舗和菓子屋「菊里松月(きくざとしょうげつ)」の逸品がこれ。

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どうです、この堂々とした、ドヤ顔のお姿。相撲で言うと、アンコ型。

 

創業が大正12年(1923年)、現在3代目。ここの草餅は創業当時からほとんど同じ作り方をしているもので、サイズも素朴にデカい。5月までの期間限定品。

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1個220円(税込み)。気持ち高めだが、それ以上にヨモギ餅の美味さと中のつぶあんの質とボリュームに圧倒される。

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濃いヨモギ(岐阜産)を練り込んだ柔らかな餅とつぶあんのふくよかな甘さがマッチしている。

 

たまたまいらした3代目によると、「使っている小豆は十勝産の雅(みやび)です」。ちなみに砂糖は白ザラメとか。

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普通の小豆より高価な大納言小豆で、つぶしても美味いと言われる小豆でもある。

 

美味いはずだよ。塩気もほんのり。

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その二つが口の中で絶妙に爆発する。その後の春風を引き連れて。

 

シンプルだが、奥の深さ。

 

もう一品、研究熱心な3代目が新しく作り上げたのが「まつづき」(税込み 220円)。店名をひらがな読みしたところに店主の心意気を感じる。

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わかりやすく言うと、ヨモギのあんころ。ありそうでなかなかない、コロンブスの卵のようなすぐれモノだと思う。

 

こちらもデカいので、一見おはぎのように見えるが、中のヨモギ餅をこしあんで閉じ込めている。職人のきれいな手の匂いもする。

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このこしあんがなめらかで上質。むろん自家製。やや控えめな甘さで、十勝産雅の風味を見事に生かしていると思う。

 

ヨモギ餅の新旧あんこ対決、と言えなくもないが、どちらも不思議に懐かしい。

 

実は名古屋にはいい和菓子屋が多いが、こうした餅菓子屋さんが町中に自然に存在している。歩くとそれがよくわかる。

 

京都の陰に隠れているが、尾張名古屋の奥も深い。

 

賞味期限が「本日中」なので、夕飯後にホテルに戻って、2個ぺろりと平らげる。別腹。名古屋のあんこのレベルに想いを致してみる。

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あっぱれ、と小さく呟いてみる。

 

中村郷中村(現中村区)出身と言われる豊臣秀吉が大のあんこ好きだった、という説もある。見たわけではないので、裏は取れていないが。

 

尾張名古屋は和菓子で持つ。もとい、あんこもあるでよ。

 

所在地 名古屋市中区新栄3-23-10

最寄駅 地下鉄千草駅下車歩約10分

 

 

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地下街の王道「小倉トースト」

 

本場・名古屋で小倉トーストを食べる。

 

これはあんこ好きにとっては避けられないスイートロードの一つではないか?

 

数ある有名店の中で、あんこのボリュームが半端ではない、伏見地下街にある「ゴルドカフェ」へ。だが、あんこの神様はいたずら好きだった。

 

「もうメニューには出していないんですよ」。

 

で、教えてくれたのがすぐ近くにある茶店「びーんず」だった。

 

これが王道を行く、厚いバタートーストに小倉あんたっぷりの、見事な小倉トーストだった。

 

それがこれ。

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情報誌やネットでは個性的な小倉トーストが数多く紹介されているが、新しければいいというものではない、と思う。

 

「びーんず」は昭和57年(1982年)創業の喫茶店で、プレスリーやモンロー、ビートルズのブロマイドなども置いてある、昭和のよき喫茶店。マスターはミニクーパーの収集家でもある。パスタやカレーなど食事メニューも充実していて、サラリーマンやOLなど常連客も多い。

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モーニングは終わっていたので、単品を頼むことにした。ブレンドコーヒーとのセットで650円(税込み)なり。

 

小倉トーストに関しては特に有名店ではないので、期待半分で注文したが、期待は裏切られるためにある?(今回はいい意味でだが)

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木のプレートに乗った、山型食パンは厚さが2・5センチは優にある。それが二つに切り分けられている。生クリーム(別皿)も添えられていた。

 

バターが塗られていて、その上にどっかと置かれたテカリのある小倉あんは緩め。甘めで小豆の風味が濃い。こんがり焼けた山型食パンとの相性がとてもいいと思う。

 

つい目を閉じたくなる、香ばしい美味さ。口の中の天国。

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小倉あんは製餡所(井村屋)のものにマスターがアレンジを加えているとか。

 


山型食パンの美味さと香ばしいバターの塩気が、主役の小倉あんをバランスよく引き立てている。

 

奇をてらわない王道のスタイルが好ましい。

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生クリームを合わせると、バニラの香りが加わって、味わいを二度楽しめる。

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ここにも1+1+1=5のあんこの世界がある。

 

小倉トーストの元祖は、大正10年までさかのぼるようだ。この近く、伏見にあった「喫茶 満つ葉」(元は和菓子屋だった?)が、大正モダンの流れの中で、トーストにぜんざいを乗せて出したのが初めて、と言われる。

 

BGMの「ホテルカリフォルニア」が心の奥に届く。スイートな金色の時間(カッコつけすぎだぎゃあ)。

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昭和のレトロな地下街で出会った、隠れ名店の小倉トースト。名古屋にはいい和菓子屋さんが多いが、小倉トーストの太い枝葉もすっかり定着している。

 

あんこの神様は気まぐれだが、やっぱりいる?

 

所在地 名古屋市中区錦2-13-24(伏見地下街)

最寄駅 地下鉄伏見駅歩約1~2分

 

 

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10代続く豊橋「絹与」の羊羹3種

 

羊羹(ようかん)というと「とらや」があまりに有名だが、幻のあんこを探す旅を続けている途中で、あんビリーバボーな羊羹屋さんを訪ねることにした。

 

5~6年前から「一度は行くべき店」として金星を付けていた、羊羹をメーンにした上和菓子屋さんでもある。特に夏場限定の水ようかん「む羅さき」は予約しないと手に入りにくいとも言われる。

 

コアな羊羹好きの間では知られた存在。

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東海道本線豊橋駅からチンチン電車(市電)で札木下車、呉服町に店を構える「御菓子所 絹与(きぬよ)」。6年越しの甘い夢が今回ようやく実ったというわけである。

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創業が何と享保19年(1734年)、現在10代目。一子相伝で昔ながらのきめ細やかな羊羹づくりを続けている、超レアな店でもある。旧吉田藩の城下町でもあり、東海道五十三次「吉田宿」で栄えた場所でもある。

 

「羊羹の歴史の滴り」を固めたような3棹だけ、今回はテーブルに載せたい。その宝石のようなお姿がこれ。

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正座して食べたくなる羊羹で、「小豆(煉り羊羹)」(1棹 税別1200円)、「今宵の友(和三盆を使った煉り羊羹)」(同 1600円)、「久礼羽(白大福豆を2色に煉り上げた羊羹)」(同 1300円)の3種類。

 

それぞれに上質の味わいを感じたが、個人的に最も気に入ったのが「今宵の友」。

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竹皮を取り、銀紙で丁寧に包まれた羊羹を切る。

 

本体が現れる。1棹の長さは192ミリ、幅45ミリ、高さは28ミリほど。

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見事なテカリと小倉色、窓から差し込む光で、周辺部がほのかに明るい。

 

砂糖は9代目が探し求めた阿波の特別な和三盆を使っている。

 

口に入れた瞬間、北海道十勝産小豆のきれいな風味と深いコクが穏やかに広がってきた。ふわり感がすごい。

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ほどよい甘さ、なめらかなねっとり感、しっかりした歯ごたえ、長い余韻・・・羊羹の持つ特性を突き詰めていくとこうなるのか、という絶妙な味わいで、その奥に一子相伝の根を詰めた作業が想像できる。

 

「小豆」は本煉り羊羹で、小豆の粒々はない。「今宵の友」と違うのは使用している砂糖が白ザラなこと。なので、こしあんの美味さがストレートに伝わってくる。味わいはすっきりとした、きれいな余韻が特徴。

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白と紅の「久礼羽(くれは)」は見た目の美しさとシンプルな味わい。白大福豆のクセのない風味と食紅で赤く染め上げた2色の層が、若き羊羹職人としての10代目の腕の精進を感じさせる。

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「あん作りから手作業で自家製という羊羹屋は極めて少なくなってきていますね」(9代目)

 

店を訪ねた時、幸運なことにその現場を見せていただいた。長い木べらを使い、信州茅野産の角寒天と合わせ、砲金の釜で少量ずつじっくりと練り上げていく。付きっきりの作業が続く。

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「小豆の顔を見ろ、丁寧にあんから自分で作れ。これが先代からの教えなんですよ。砂糖焼けしないギリギリのところで踏ん張る。一瞬も気を抜けないから大変なんですよ」(9代目)

 

少量製造の極致とも言える。若い10代目とそれを見つめる9代目。私にとっては奇跡の時間でもある。一子相伝の、280年以上の気の遠くなるような歴史が木べらの先で、一筋の光の線になっていくよう(困った、うまく表現できない)。

 

「できました」と10代目。

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煉りあがった羊羹は舟(型)に流し込み、1週間ほどかけて「おさまる」のを待つ。

 

そうして出来上がった羊羹を1棹ずつ切っていく・・・残念ながらそこまでは滞在できなかったが、その一端はほんの少しだが、垣間見ることができた。

 

へえーと思ったのが、最後の仕上げにハチミツを少し入れること。糖化を防ぐための「絹与」直伝の技でもある。

 

その汗と技の成果を幸せホルモンに包まれながら賞味する。食べ終えると、かしわ手を打ちたくなった。これは夏場も行かなくてはなるまい。

 

所在地 愛知・豊橋市呉服町61

最寄駅 東海道新幹線豊橋駅から市電「札木」下車

 

 

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足利の驚き、五代目の豆大福

 

あんこ旅には思わぬ発見がある。

 

それがローカルであればあるほど喜びも倍増する。

 

今回は関東の古都・足利で見つけた絶品豆大福を書きたい。

 

百の言葉より、とにかく見ていただきたい。

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メーンスポット、足利学校や国宝・鑁阿寺(ばんなじ)から歩いて5分ほどの場所にひっそりと暖簾を下げる、「上州屋餅店」(じょうしゅうやもちてん)。平日なので人通りは少ない。たまたま午後3時過ぎに、軽い気持ちで入ってみた。

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豆大福やだんご、粟餅などの文字が見えたが、ほとんどきれいになくなっていた(大福だけが少し残っていた)。

 

申し訳なさそうに「午前中ならあるんですけど、今日は売り切れてしまって」と五代目の奥さん。板場の奥で五代目店主が仕込みをしている姿が見えた。いい職人の気配。杵の餅つき機も見えた。

 

これはシンプルな地味系だが、ひょっとして凄い店ではないか?

 

後日、出直すことにした。約1週間後、午前10時に再び暖簾をくぐった。

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豆大福(税込み 140円)、大福(同130円)、それにあんこ玉(同130円)を買い求め、固くなる前に試食することにした。無添加なので、早めに食べるに限る。

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豆大福の大きさは原宿「瑞穂」や青山「まめ」より少し小ぶりだが、標準的な大きさ。

 

たっぷりの餅粉、驚くべきは黒々とした大粒の赤えんどう豆の多さ。

 

東京三大豆大福と比べても、勝るとも劣らない、本物の存在感が内側から淡い光を放っているようだった。ていねいな仕事ぶりが透けて見える。

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あんこの神様が宿っているかもしれないぞ。

 

餅屋の餅の凄み宮城県産みやこがねを使用、それを毎朝搗いている。柔らかく、しかもしっかりとした歯ごたえがある。赤えんどう豆は北海道産、少し塩気があり、やや固めなのが好み。きりっとしていてお見事な炊き方だと思う。

 

中のつぶあんは甘さを抑えていて、ふくよかなしっとり感はとても上質。それがたっぷりと微笑んでいるようにさえ見える。

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すぐに小豆のいい風味が口の中で立ってきた。塩気はほとんどない。つぶあんこしあんの違いはあるが、京都の出町ふたばの豆餅を思い出した。足利でかような出会いがあったことに少し驚きながら。

 

大福は中がこしあんで、こちらも控えめな甘さで上質。

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地元では知られた名店だが、全国的にはおそらく無名に近いと思う。

 

創業が明治40年(1907年)。5代目によると、初代は新潟から出てきて、酒屋を営んでいた。「上州屋」という屋号はその時代の客筋が上州に多かったことから来ているようだ。2代目のときに餅屋に転身。それが現在もしっかり続いている。

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驚きは素材の小豆。北海道産を使う和菓子屋さんが多いが、地場の大納言小豆(栃木産)を使用している。砂糖は白ザラメ。素材へのこだわりが半端ではない。

 

「ここの大納言小豆は丹波なんですよ。いい小豆なんです。でも、去年の台風で被害が大きかったので、これからは仕入れにくくなるかもしれません」(5代目)

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「あんこ玉」は2個つながりで、こちらも宝石のような美しさで、こしあんのきれいな余韻とともに、シンプルだが見事な職人ワザだと言いたくなる。

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すべてがコスパ的にもスーパーだと思う。

 

こういう背筋のピンとした店が派手な宣伝もせずに、百年以上もシンプルな暖簾を下げている。お釈迦様もご存じあるめえ。つい、そんなジョークを言いたくなった。

 

所在地 栃木・足利市家福町2163

最寄駅 東武伊勢崎線足利駅から歩約10分

 

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寅さんも仰天?漬物屋の「巨大いちご大福」

 

いちご大福のおいしい季節だが、「ン?」と目が点になる、ちょっと驚きのいちご大福と出会ってしまった。

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男はつらいよ」の舞台、柴又帝釈天参道でのこと。漬物と和菓子の老舗「い志ゐ(いしい)」の前で「フーテンどら焼き」(税込み1個200円)に好奇心がむくむく。

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ある種の観光地のノリ、と軽く考えて、それを2個だけ買い求めてから、ふと視線を移すと、不思議系特大のいちご大福と目が合ってしまった。サイズは並と特大。

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これはスゴ! 

 

「野菜ソムリエのいちご大福」(特大 税込み460円)と手書き表記してあった。

 

数秒ほどニラメッコしてしまった。

 

「い志ゐ」は創業が文久2年(1862年)。元々は呉服屋で、店の常連客などにお茶と一緒に漬物や和菓子を出していて、それが評判を呼んだという。

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3代目のときに漬物屋を始め、京都の「仙太郎」で修業した4代目が和菓子も始めたという面白い歴史を持っている。

 

呉服→漬物→和菓子。ダウィーンも驚きの進化ではないだろうか?

 

スキップしながら(死語かな?)自宅に持ち帰って、日持ちのしない「野菜ソムリエのいちご大福」を賞味することにした。

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特大なので、店のお方が紙箱に入れてくれた。たとえ1個でもこの心遣いが柴又、だと思う。

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重さを量ると130グラムもある。高さは6センチ、底も幅6センチ。普通のいちご大福より二回りはデカい。山型の見事ないちご大福で、外側の求肥餅には粉雪(餅粉)がうっすらとかかり、あんこといちごが透けて見える。

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そのデカくて美しいお姿にひれ伏したくなった(バーカじゃないの?)。

 

いちご大福の横綱級だと思う。

 

いやいやそうじゃない・・・と首を横に振る。「男はつらいよ」のマドンナに例えるべきで、フルーツ大福界の松坂慶子が近いかもしれないぞ。

 

心の中であんこの神様に二礼二拍手一礼してから、包丁を入れる。

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見事な白あんに包まれた、甘い果汁が滴るような、巨大いちごが現れた。

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求肥餅の上質な柔らかさ。その下の白あんは北海道産手亡(てぼう=白いんげん豆)のこしあんで、5~7ミリほどの厚み。しっとりとふくよか。ほどよい甘さときれいな風味がわき役の立場を超えないぎりぎりの範囲でふわりと広がる。砂糖は和三盆か? かすかに塩気。

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それだけでこのいちご大福の凄みがわかる。和菓子職人としての4代目の腕は確かだと思う。

 

巨大いちごは「時期によって違いますが、今の時期はスカイベリーです」(女性スタッフ)。栃木産のプレミアムいちご。あまおうを使うこともある。

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コクのある果実味、滴るような甘さが噛んだ瞬間、絶妙な化学変化を起こすよう。そんな感じ。求肥餅と白あんとワンチームになって、1+1+1=5の世界を現出させる・・・(比喩がどうかな)?

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オーバーではなく、これは新たなマドンナだと思う。

 

まんじゅう好きだったとも言われる寅さん=渥美清がこれを食べたら、きっと小さな目を思いっきり見開いて、「おい、さくら! これってホントにダ、ダイフクかい?」と言いそうな気がする。

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白あんの他にこしあん版も食べたいなあ(残念ながら白あんのみ)。

 

「フーテン寅(どら)焼き」もただのウケ狙いかと思ったら、ふわりとした手焼きの皮と中の粒あんの質が高い。皮とあんこに生クリームとピーナッツオイルが入っているようで、4代目はチャレンジ精神豊かな、どうやら新しい温故知新を目指しているようだ。

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柴又は観光地でもあるが、こうした腕のしっかりした職人による新しい試みは歓迎したい。ちなみに4代目は野菜ソムリエの資格も持っているそう。

 

買う前は460円は高いかな、と一瞬思ったが、食べ終えると、納得がいく。余韻の長さも付け加えたい。

 

甘いおまけ。上映中の男はつらいよ50 お帰り寅さん」は、予想よりも素晴らしい出来で、見終わってからしばらく席を立ちたくなかった。よき部分の昭和の後ろ姿と寅さんの去り行く後姿が重なった。俗が聖になるって、こういうことを言うのかな、と思ったりして。えっ、男(あんた)はあまいよだって?

 

所在地 東京・葛飾区柴又7-6-20柴又帝釈天参道

最寄駅 京成金町線柴又駅下車 歩いて約3~4分

 

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東京vs福井「冬の水ようかん」

 

水ようかんは夏に楽しむもの、とは限らない。

 

福井などでは、こたつに入って、冷たい水ようかんを楽しむ風習があるし、秩父にも明治・大正から「黒糖水ようかん」を細々と作り続けている店がある。

 

とはいえ、一般的には冬の水ようかんは極めて珍しい。

 

寒風のなか、8代将軍・徳川吉宗ゆかりの飛鳥山公園周辺をブラ歩き中に、古い甘味処で面白い水ようかんと出会った。たまたま見つけた不思議系の水ようかん

 

それがこれ。

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寒夜に小さなお月様がぼんやり浮かんでいるようだな、というのが第一印象だった。

 

王子稲荷神社から近い「石鍋商店(いしなべしょうてん)」の「音無しの雫(おとなしのしずく)」である。ネーミングがちょっと凝りすぎ(?)・・・だが、生菓子の伝統からは外れていない。

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ここは久寿餅(くずもち)でも知られる老舗でもある。創業が明治20年(1888年)で、もともとは寒天なども売るこんにゃく屋さんだったらしい。

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たまたまいらっしゃった4代目によると「東京で和菓子の新しい歴史を作りたかった」と、15年ほど前に考案したものという。

 

「寒中に食べる水ようかんが本当は美味いんですよ」

 

店内の甘味スペースで「あんみつ」(税込み610円)を味わってから、軽い気持ちで「音無しの雫」(1棹 900円)を買い求め、暖房の効いた自宅で賞味することにした。ぜいたくな時間。

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包みを取ると、白い紙箱が現れ、そこに濃い藤色の水ようかんが横たわっていた。1棹の重さを量ると、約370グラム。長さは165×55ミリ。厚さは35ミリ。ボリュームも十分で、上質の予感。

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裏ごしした栗あんが小さな満月に見えた。よく見ると、数個、闇夜に浮かんでいる。

 

ビジュアル的にもかなりの凝り方。

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これが私にとっては想像以上の味わいだった。

 

甘みをかなり抑えたきれいなこしあんが、背景に沈む寒天と絶妙に溶け合っていて、ザラっとした舌触りがとてもいい。こしあんの微粒子が舌の先から喉の奥へとすーっと消えていく感覚。

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余韻のよさ。塩気もほんのり。後朝の別れってこんな感じかな?(まさか、脱線しすぎだよ)。

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4代目によると、使用している小豆は北海道産えりも小豆。寒天は信州茅野産白牡丹。砂糖は白ザラメ。塩も大島産深層水素材へのこだわりも半端ではないようだ。

 

続いてもう一品、デパートの物産展で手に入れた福井「えがわ」の水ようかん(中 税込み451円)と食べ比べすることにした。

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こちらは有名な冬の水ようかん。

 

口に入れた瞬間、黒糖の風味が広がり、かなり甘い。

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寒天が強めで、つるりとした食感。

 

「音無しの雫」が粋なら、こちらは野暮ったい、シンプルな味わいだと思う。

 

水ようかんの歴史は古く、一節では、その昔、京都などで奉公中の丁稚(でっち=今では死語かもしれない)が正月、田舎に帰るときに主人から持たされたといわれる「丁稚ようかん」が始まりとも言われる。

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福井の水ようかんは、その流れを汲んだものとも言われる。

 

対極に位置する二つの冬の水ようかんだが、正直に言うと、「驚き」という意味で、私の好みは質を追い求めた、ある種、野心作の方(基本的には両方好きだが)。

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この小さな試みは新しい可能性さえ感じさせる。

 

で、意外な落ち。4代目によると、月に見えたものは「月ではなく狐火なんですよ。それが7個あります。夏は蛍と考えてもらってもいいんです」とか。王子稲荷神社の狐火かも。電話の向こうで、4代目が明るく笑っていた。

 

所在地 東京・北区岸町1-5-10

最寄駅 京浜東北線(または南北線王子駅北口から歩約3分

 

 

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