先週書いたパイナップル大福を見た友人が、笑いながら「みかん大福」の存在を教えてくれた。
しかも飛び切りの「冷しみかん大福」。
それがこれ。
いちご大福の大ヒットがフルーツ大福続々誕生の背景にあるが、それにしてもこの流れは和菓子界におけるコペルニクス的転回の続編としか言いようがない。
ひと昔前まではあり得なかった世界。
大福とフルーツが恋愛して、しかも結婚までしちゃうなんて。
私的にはこちらの方が親近感を覚える。
小江戸・川越でも渋い和菓子屋さんとして知る人ぞ知る「菓子処 龍月(りゅうげつ)」の逸品。
川越市役所の裏手にあり、観光客もここまで来ると少なくなる。
白地の長暖簾が下がり、「あんころ餅」「カスティモ(カステラとさつまいもの合体)」の文字がどこかノスタルジックで、地味系のいい店構え。「ミカン大福」の文字も見える。
創業68年の隠れた老舗で、現在3代目。
店内の一角で賞味となった。
1個300円(税込み)。抹茶を付けてもらうと、計600円なり。
求肥(ぎゅうひ)餅を菓子ようじで切ると、ジューシーなみかんが丸ごと一個、オレンジ色の蜜を滴らせるように現れた。
その周りを白あん(白いんげん豆)で手包みしている。
いちご大福もそうだが、フルーツ大福は絵的にもきれいだ。
3代目店主によると、この時期のみかんはハウスみかんで、「今が最も甘さが濃いんです」。
求肥(ぎゅうひ)餅には「米粉も少し加えていて、食感が違います」とか。
口に入れた瞬間、柔らかな餅を突き破るように、冷たいみかんの甘い果汁が波のように押し寄せてくる。糖度は15度くらいありそう。
おおお~あまァ~(言葉も滴る)
白あんの存在がかすんでいるが、じっくり味わうと、ほんのり塩気のある上質な白あんがみかんを引き立てていることがわかってくる。
猛暑が消える、口の中の冷たい小天国。
ハウスみかんは愛媛産と高知産を使用、温度は0~1度に保っているそう。
「みかん大福を作り始めてもう4~5年になります」(3代目)
上生菓子から蒸しパン(北海道産大納言小豆入り)まで、3代目の和菓子職人としての腕は確かで、伝統と新しさを融合させる視線の先には何が見えるのか?
「冷いみかん大福」の向こう側。繊細な技巧。
ここにも和スイーツの可能性の一つが確かにある、と思う。
所在地 埼玉・川越市元町1-6-11