週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

老舗「冷凍きんつば」の舌妙

 

地味系の驚き、というのもある。

 

この「冷凍きんつばである。

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小江戸栃木市の御菓子司「松屋(まつや)」を訪ねたときのこと。

 

ここは創業が江戸時代前期、延宝元年(1673年)という、関東でも有数の古い和菓子屋さん。タイムスリップしたような店構え。

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上生菓子やどら焼き、黒羊羹、カステイラなどが並ぶなか、ショーケースの中に「冷凍きんつば」の文字を見つけた。税込み1個162円なり。

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ン? 冷凍きんつばだって?

 

目をこすったが、確かに「冷凍」の文字。和菓子の頭にわざわざ「冷凍」を付けるなんて、おかしすぎる。普通はあり得ない。

 

冷凍=まずい、そう言ってるのと同じではないか。

 

随分と和菓子屋巡りをしてきたが、老舗、それも超の付く老舗で、「冷凍きんつば」を売りにしているのは初めてのこと。

 

たまたま店にいた14代目(これも驚き)が考案したもので、「冷凍しても味が変わらないんですよ。解凍して溶けかかった頃が美味いんです」とか。

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我が家に持ち帰って、再び冷凍室に入れ、解凍しながら賞味することにした。

 

長方形のきんつばというのも珍しい。

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包丁を入れ、二つに切ってから賞味となった。

 

薄い皮と中のあんこの色合いと詰まり方が美しい。

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すぐに日本橋さるやの黒文字を用意して、口に入れたとたん、冷たい美味が波のように広がった。

 

びっくら。予想を超える味わい。

 

同時に猛暑も後方へと消えていった。

 

大納言小豆のような大粒の小豆とこしあん、それに寒天の配合が絶妙で、私の大好きな東京・浅草「徳太楼(とくたろう)」のきんつばに負けない、洗練された美味さだった。

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大粒の小豆は形がくっきりしていて、しかもふっくら。糖蜜のテカリ方が本物感を漂わせている。塩気はない。むろん添加物など使用していない。

 

透明な氷が口の中で小豆のまま溶けていく感覚。

 

上生菓子のあんこの雑味のない香り。

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東京や京都ならいざ知らず、関東のローカルにかような上質のチャレンジが存在していたことにちょっと驚く。

 

14代目のことが気になって、後日、電話してあれこれ聞いてみた。

 

東京・神保町の名店「御菓子処 ささま」で修業してから、栃木に戻ってきたという経歴がわかった。

 

美味いはずだよ。

 

小豆は北海道産の厳選したもの、砂糖はラニュー糖を使用しているようだ。

 

驚きはさらに。

 

もう一個をもう一度凍らせて、食べてみた。

 

美味さが衰えるどころか、風味が増していた。

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何か特別な魔法でもかけた? まさか?

 

電話の向こうで14代目はしばらく黙っていた。

 

ローカルで暖簾を守り続ける和菓子職人の矜持かな?

 

甘い、汗の歴史が静かに流れるようだった。

 

所在地 栃木・栃木市室町12-11

最寄駅 東武日光線栃木駅から歩約10分

 

 

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