世の中は誠に広い。いわんや、あんこの世界においてをや(気取りすぎだよ)。
世界を少しは知ったつもりだったが、井の中の蛙だった。
と思い知らさせてくれた和菓子屋が、関東最古の大社といわれれる鷲宮(わしのみや)神社門前にある「島田菓子舗」である。
ここの「あんこ玉」(税込み1個 70円)と「吹雪饅頭(ふぶきまんじゅう)」(同70円)が凄すぎ、と思う。
まず安さ。続いて、「ま、田舎のチープな味だろうな」との先入観が口に入れてから2~3秒ほどでくつがえされる。甘い衝撃が走る。
あんこ玉は自家製の本格的なもので、浅草「舟和」のものより二回りはデカい。ピンポン玉大で、見事な小倉色のこしあんが透明な寒天で包まれている。
さすがに葉っぱは本物とはいかずビニールだが、70円という安さと美味しさに食べ終えると納得がいく。店主の思いやいかに。
北海道十勝産小豆を使用したこしあんは塩気が強めで、ほどよい湿り気。白ザラメのねっとりした甘さが、小豆の風味をしっかりと押し上げている。
舌の上でスーッと溶けていく。きれいな余韻。まさかの場所で、小さな天国・・・そう言いたくなる。
「吹雪饅頭」はつぶしあんで、こちらはさらに一回り大きい。皮のもっちり感といい、つぶしあんの素朴な風味(こちらも塩気が強め)といい、あんこ好きにとっては一度食べるとハマる味わいだと思う。
一概に比べたくはないが、老舗の有名和菓子屋の看板て何だろう? 値付けって何だろう? そんな素朴な疑問が浮かぶほどの優れた和菓子屋がここにある。
創業が昭和10年(1935年)。現在三代目が父の志しを受け継いで、日夜昔ながらの和菓子作りに励んでいる。上菓子や新しい和スイーツ作りにも取り組んでいる。
あんこ玉と吹雪饅頭は初代からの作り方を引き継いでいる。
ご高齢の二代目女将さんは、笑いながら「いつまで続けられるか」と言うが、未来はどうなるか誰にも分からない。
こういう、志しのある小さな和菓子屋が関東の片隅で暖簾を守っていることを素直に喜びたい。