京都でおはぎ(春はぼた餅)というと、一に今西軒、二に仙太郎という名前が浮かぶが、ここにあんこ好きにはたまらない異端児がいる。
東本願寺前の七条通に暖簾を下げる「名代おはぎ 松屋」である。
1個が今西軒のおはぎの3個分は優にあると思う。
そのおはぎがこれ。
創業は昭和20年12月。終戦から約4か月という混乱期に産声を上げている。百年以上暖簾を下げ続けて、ようやく老舗の一年生くらいという京都では、まだまだ老舗とは呼べない餅菓子屋だ。京都流に言うと「お餅屋さん」。
だが、この特大おはぎ。大きすぎて1個から箱に入れてくれる。お代は330円(税込み)。2個入りで660円(同)。包みと内側の銀紙がステキである。
そのつぶしあんの圧倒的なボリュームと素朴な美味さがたまらない。
ゆるくふっくらと炊かれていて、かなり甘い。店主によると、北海道十勝産小豆を使用している。砂糖は多分上白糖。
小豆の風味が口中で爆発するよう。
つまりアク抜きをわざと少しだけ抑えていると思う。
もち米にうるち米をブレンドしているような半づきのご飯玉は、ほんのり塩気があり、柔らかなモチモチ感がこの素朴なあんこによく合っている。
箸でまず2つに割り、それからさらに4つくらいに分けて食べる。
何という幸せ感。あんこ好きにとっては天国にいるようだが、苦手な人には地獄かもしれない。
今西軒や仙太郎といった洗練された京おはぎとは別世界の田舎おはぎ。それが京都駅から近い場所に72年も暖簾を下げていることがうれしい。
作りたてなので、その日中に食べなければならない。
京都の奥の深さを改めて思い知らされる、そんなおはぎである。
最寄駅 京都駅から歩5~6分