戦国時代にタイムスリップしたくなったら、この和菓子を食べてみてほしい。
幻のあんこ菓子を求めて三千里の旅。
今回ご紹介するのは、にわかには信じがたい、堺の「芥子餅(けしもち)」である。
創業が室町時代・天文元年(1532年)。当代は何と二十代目。一子相伝で、現在もなおそのワザを受け継いでいる。
あべのハルカスを見上げる天王寺から、レトロな路面電車(阪堺線)に乗って、約1時間半ほど。日本で一番のどかなチンチン電車。宿院(しゅくいん)駅で下車すると、そこがあの戦国時代に名をはせた「独立国 堺」の中心地である。
東南アジアを経由してヨーロッパや中国とも盛んに貿易(南蛮貿易)をし、独自の軍隊まで持ち、千利休など歴史に残る茶人を産んだ場所。そのスケールの大きさは多分、想像を超えている。悲しいかな、往時を実際に見ることはできない(当たり前だよ)。
今は過日の面影はない。
だが、その夢のシッポはほんの少しだが、残っている。
千利休の屋敷跡を見てから、5~6分ほど歩くと、そこにひっそりと「本家小嶋」が暖簾を下げている。485年も続く老舗中の老舗だが、何も知らないと、ただのさびれた和菓子屋にしか見えない。
ここの「芥子餅(けしもち)」が驚きの味わいなのである。あの千利休が茶席にも出していたという芥子餅。「肉桂餅(にっきもち)」とのセット(3個ずつ6個入り 920円)をお土産にして、翌々日賞味した。
こしあんを求肥餅(ぎゅうひもち)でくるんで、表面をびっしりと芥子の実でまぶしてある。口に運んだ途端、芥子の実の香ばしさとプチプチ感に「ホオーッ」となる。
続いて、求肥餅の柔らかさと中のこしあんのきれいな風味の波。そこいらの芥子餅とは次元が違い過ぎる(と断言してしまおう)。 言うまでもないが、すべて自家製。
「ホオーッ」が二度三度と続いて出てくる。とにかく驚かされる。
肉桂餅もニッキの香りとこしあんが見事に融合している。
堺には江戸時代創業の「小島屋」や「八百源」があり、そちらは全国のデパートなどでも売られているが、この「本家小嶋」は堺から一歩も出ようとしない。
雨の日も風の日も、ひっそりと暖簾を下げている。その凄み。
孤独な、もう一人の千利休がその暖簾の奥に、今も生き続けている気がする。
所在地 大阪府堺区大町西1-2-21