テレビや食べログなどで高評価を得ているスイーツ店が美味いとは限らない。その逆もある。
話は三年ほど前に遡る。
古都・足利でのこと。鑁阿寺(ばんなじ)の参道近くにある古民家カフェにたまたま立ち寄ってみた。ちょうどティータイム。
「あまから家」という店で、カレーと甘味が売り物。それで「あまから家」。正直、それほど期待して入ったわけではない。
ご高齢の店主と女将さん二人で切り盛りしていた。メニュー写真の「あんみつ」(税別630円)が美味そうだったので、それを頼むことにした。
予想は裏切られるためにある。
このあんみつがワンダーだった。見事なこしあんと粒あんが、大きめの朱塗りの器にドッカと鎮座していた。二種類も!
ひと目でそのあんこが本物と直感した。人生にはまさかの出会いがあるが、これもその一つ・・・のはずだった。
桃、パイナップル、ミカン、赤えんどう豆、その下の寒天。果物以外はすべて店主の手づくりで、むろん、二種類のあんこも自家製。
眼下に、あんこの銀河星雲。
女将さんによると、店は約30年の歴史。驚いたことに「この20年間、値上げしていないんですよ」とか。
隠れた名店を見つけた気分。
何よりも二種類のあんこ。こしあんは銀のスプーンで口の中に運んだ途端、いい小豆の風味が広がった。ほどよいきれいな甘さ。黒蜜の濃さが好みの別れるところだが、期待していなかった分、余計感動が広がった。
つぶあんはこってりしていて、しかもふくよかに炊かれていた。
小豆はその時々のもっともいいものを使っているそう。「なるべく地物を使っています」(店主)とも。砂糖はグラニュー糖とか。
店主の作り方のこだわりぶりが、仕草や言葉の端々からこぼれ落ちてくる。
古都の一角で不思議な時間が流れる。
寒天が柔らかすぎることが好みではないが、あんこは私にとっては「拾い物」だった。
先日、それを確認するために久しぶりに足を運んだ。
だが・・・悲しいかな、三年前の感動が来ない。これはどうしたことか? 普通に美味い店になっていた。普通に美味い店・・・。それでいいのではないか、そう思い直す。
こちらの舌に異変が起きてしまったのかもしれない。彼も私も昔の彼でもなく、私でもない。甘辛のほろ苦い後味が舌に残ることだってある。
所在地 栃木・足利市昌平町2369
最寄駅 JR足利駅歩約5分