「幻のあんこ菓子」を探して、三千里の旅へ。
今回は桜が舞う四国に上陸。金刀比羅宮、通称こんぴらさんの門前町で素朴な大福餅に出会ってしまった。
あまりに、あまりに素朴な。繰り返し、そう形容したくなる大福餅。
蔵造りの和菓子屋「浪花堂餅店」。たまたまこんぴらさんを参拝した後、横道に入ってみたら、目立たない場所に藍染めの暖簾が下がっていた。
1368段の石段を上り下りして、へろへろ疲労困ぱいの目に希望の灯がポッとともった。
手前には幟(のぼり)が立っていて、「浪花堂特製 五色餅 しろ・よもぎ・きび・あわ・黒豆」の文字が染め抜かれていた。
入り口になぜか古い手押しの小さな屋台が置いてあり、「五色餅 1パック600円」の文字が。いい餅菓子屋の予感。
惹かれるように狭い店内に入ると、若い夫婦が仕事中だった。
話をすると、男性は六代目だとわかった。奥さんはパティシエでもあるとか。
創業が江戸末期にまでさかのぼる。店名でわかる通り、初代は大阪方面からやって来たという。
「五色餅」(税込み 600円)を買い、その場で「よもぎ」だけを食べることにした。食べるスペースはなかったが、小さな縁台があった。
添加物などは一切使っていず、「すぐに固くなります。なるべくお早めに」とかで、大急ぎで作りたてを食べようと思ったからだ。ご夫婦も快く(?)「どうぞ」。
何よりも餅が餅屋のものだった。今も杵(きね)でついているとか。そのしっかりした弾力と伸びやかさとよもぎの香りがとてもいい。
一個の大きさもかなり大きめ。
さらに中のあんこが秀逸。小倉色のつぶしあんで、抑えられた甘味とほのかな塩気。その加減が絶妙だった。
忘れかけていたあまりに素朴な世界。
作り方は創業当時のまま。釜で毎日、4時間かけて、じっくりと炊いているという。
しっとり感と小豆の風味が舌の上で睦み合う。
愛あるあんこ・・・これもこんぴらさんのご利益ということか?
その翌々日、六代目が教えてくれた通り、すっかり固くなった残りの4個をオーブンで焼いてみた。表面がこんがりとキツネ色。
きびとあわ、それに白、黒豆がそれぞれに素朴な風味をかもし出している。
焼き大福餅の美味さ。中のあんこのとろけ方。疲れが宇宙の果てまで飛んでいくよう。
あっ、忘れるところだった。店の入り口に置いてあった手押しの屋台は六代目のおばあちゃんが実際に使っていたものとか。人知れぬ苦労が染みついた屋台・・・。
それを店頭に置いている、六代目夫婦の心意気や良し。
所在地 香川・琴平町603-3
最寄駅 琴電琴平駅歩3分ほど