夢にまで見た、幻のよもぎ餅・・・。
京都に住む友人から、その存在を知ったのは3年ほど前。彼が上京した折に、わざわざ手土産に持ってきてくれた。
賞味期限はその日中ということだったので、夜、みんなで折詰を開けると、瑞々しいあんこで覆われた、見事なよもぎ餅が整列していた。
何よりその美味さが、京都・北野天満宮そば「澤屋」の粟(あわ)餅に匹敵していた。
このよもぎ餅こそ奈良・葛城市当麻寺(たいまでら)に暖簾を下げる中将堂本舗の「中将餅」だった。
場所が極めて不便で、奈良駅からさらに近鉄線で1時間以上も入らなければならない。
去年秋、仕事で京都に行ったついでに、意を決して、足を延ばすことにした。
近鉄線に揺られ、ようやく当麻寺駅で降りると、正面奥に「よもぎもち」の白い暖簾が見え、「中将堂本舗」の古い建物が見えた。よもぎ餅を訪ねて三千里、の気分。
暖簾分けなどしていないので、作りたてはここで食べるしか方法がない(クール便で郵送もしてくれるが)。
午後には売り切れてしまうことも多いと聞いていたので、事前に二人前(煎茶付き一人前2個 税込み300円)を予約しておいた。
テーブル席に腰を下ろして、こしあんが乗っかったよもぎ餅を黒文字で口に運ぶ。
きれいな、甘さを抑えたこしあん。北海道十勝産小豆に丹波大納言小豆も少し加えているとか。
よもぎ餅は葛城の里に自生したよもぎを使用した自家製。その柔らかさと風味。
口中に春のそよ風が小さく渦を巻くよう。
あっという間に4個平らげて、さらに2個追加した。追加分は1個80円。合わせて620円ナリの至福の時間が流れる。きれいな時間。
ふと3年前に食べた同じよもぎ餅の方が濃厚だった気がした。
ひょっとして搗(つ)きたて、作りたてよりも数時間置いた方が味に深みが出るのか?
あるいはよもぎの時期が春なので、3年前がちょうど春だったことにも関係があるかもしれない。
伊勢の赤福にも似ているが、それよりも手づくりのこだわりがある。
創業が昭和4年(1929年)で、現在の当主は三代目。昔からこの地方にある「あんつけ餅」を茶店で売り出したことが始まりとか。
女性職人たちが搗きたてのよもぎ餅を手でひねって、そこにヘラでこしあんを付けていく。隣りではあんこ作り。天国に一番近い場所。
その見事な手さばきを眺めながら、幻のよもぎ餅を味わう。
奈良時代から当麻寺に伝わる中将姫伝説を思いながら、約3年にわたる想いが成就しつつあることに目を閉じたくなった。あんこ馬鹿のサガ。時よ、止まれ・・・。
所在地 奈良県葛城市當麻55-1