小粋な包みを解いて、浅草「徳太楼」のきんつばを初めて見たときのこと。
それまでのきんつばとは、まるで色味が違うことに、つい見入ってしまった。
きれいな乳白色の皮。それが8個入っていた。
1個135円(税込み、箱代は別料金)。真四角の形で、小ぶりだが、厚みがある。薄っすらと小倉色のあんこが透けて見えた。
焦げ目らしきものが見えないのが、不思議だった。
榮太楼の金鍔(きんつば)にしても、他のきんつばにしても、濃淡はあるが、素朴な焼き色が付いている。それがまた魅力でもある。
だが、目の前のきんつばには、それが見事なくらいない。皮独特の匂いも感じない。職人芸としか言いようのないきれいな焼き方。
小皿に移して、爪楊枝で口に運ぶと、皮はしっとりと柔らかくて、しかも薄い。洗練された、その食感が素晴らしい。
中の小倉あんは、甘さが物足りないほど控えめ。北海道産小豆を使っているが、つぶしあんではなく、粒とこしあんを合わせたようなあんこで、いい小豆の風味が立ってきた。
小さなそよ風が口の中を通り抜けていくような感覚。
寒天と水飴を上手い具合に融合させていて、ふっくらと炊かれた小豆が形を崩さないまま口の中で溶けていく。思わず、下町言葉で「うめえ」とつぶやきたくなる。
あっという間に、3個ぺろりと平らげてしまった。
徳太楼の創業は明治36年(1903年)。この年、日本で初めての映画専門館(無声)が六区で産声を上げている。現在は三代目。
作り方は基本的に初代の技をそのまま継承しているという。
近くには花街もあり、徳太楼のきんつばは長命寺の桜餅、言問団子などとともに、料亭の手土産としても重宝されてきた。
野暮ったいきんつばも好みだが、この洗練は感動的でさえある。
もしきんつば界に番付があったら、東の横綱に一票を投じたい。本気でそう思っている。
所在地 東京都台東区浅草3-36-2
最寄駅 浅草駅