週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

′19「豆大福の頂点」を食べる

 

「東京三大豆大福」という言葉が独り歩きして久しい。

 

護国寺群林堂、原宿・瑞穂、泉岳寺・松島屋を指すようだ。

 

評価の高い京都・出町ふたばは京都なので、別格らしい。

 

だが、と言いたい。

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この三つはそれぞれに特色があり、確かに絶品だとは思う。それを押さえつつ、私はここに南青山の「和菓子 まめ」を加えたい誘惑にかられる。小さな、モダンな和菓子屋さん。

 

絶品という言葉はここの豆大福にこそ冠したい。

 

歴史は15年ほど、とさほどあるとは言えないが、女性店主の和菓子職人としてのキャリアが少々変わっている。

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和菓子学校で技術を学ぶのが普通の和菓子職人のコースだが、彼女はすべて独学で、あんこ好きが高じて、最初は静岡・三島であんこカフェを開き、それが評判を呼び、やがて東京に進出、2008年には南青山に「和菓子 まめ」の暖簾を下げた。

 

独学というのが驚き。

 

天賦の才能と研究熱心が隠し味になっているに違いない。でなければ、この和モダンの、小さな店が一躍あんこ界のスターダムに押し上げられるはずがない、と思う。

 

とにかくその豆大福を見ていただきたい。

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大きさは群林堂や瑞穂と同じくらいか。大きめ。餅粉がうっすらとかかった半透明の羽二重餅。黒々とした赤えんどう豆がごろごろ透けて見える。その魅力的なボディは瑞穂や京都・出町ふたばを思わせる。

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一個260円(税込み)。このあんこが素晴らしい。売り切れじまいなので、ゲットすることが難しい。

 

運がいいことに、「あまおう苺大福」は売り切れていたが、目的の豆大福は作り立てだった。賞味期限は基本的に「本日中」。すぐに食べたい

 

近くの某所で益子のマイ皿と日本橋さるやの黒文字を用意し、賞味した。

 

手練りしているという餅の柔らかさと赤えんどう豆のきりっとしたふくよかな風味に「ほう」となる。質の高さ。

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続いて、中のつぶあんが前面に出てきた。こってりとした柔らかな炊き方で、小豆の風味が春風のように押し寄せてきた。やや甘めで雑味がない。皮まで溶けるように柔らかい。

 

これほどの三位一体の豆大福はそうはない、と思う。

 

あえて言うと、私が食べた中でもトップ集団を走る鮮烈な味わい。

 

たまたま女性店主がいたので、雑談となった。

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元々は京都出身で、あんこ好きが高じて、店まで出してしまったこと。一人で上生菓子から餅菓子まで作っているので、数はそう作れない。売り切れごめんはその結果であること。営業も水・木・金・土の4日間だけ。

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小豆は北海道産豊祝小豆(大粒の厳選小豆)を使い、砂糖はグラニュー糖か白ザラメかと思ったら、上白糖だそう。

 

「私は上白糖のコクが好きなんですよ。グラニュー糖はサッパリしすぎてると思います。こしあんも自分で手すきで作ってます」

 

これまで出会った中で、京都・松原通の「松壽軒(しょうじゅけん)」のこだわりにも驚かされたが、ここにもあんこに取りつかれた職人がいる。

 

いい余韻が今も続いている。こいつは春から縁起がいいわい。

 

所在地 東京・港区南青山3-3-18

最寄駅 東京メトロ表参道駅外苑前駅から歩約6~8分

 

 

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「湯島スイートロード」の至福

 

東京・上野御徒町から湯島にかけてはいい甘味処、和菓子屋さんが多い。

 

湯島スイートロード。私流の言い方だと、「あんこのGスポット

 

この場合のGはグレイト、と思ってほしい。

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私の好きな渋くていい店が「おいで」と暖簾を下げている。

 

みつばち、つる瀬、壺屋総本店・・・少しエリアを広げると、うさぎや、みはし上野本店も入る。上野岡埜栄泉が麻布十番に移転してしまったが、江戸・明治・大正・昭和初期創業のあんこの老舗がこれだけ集まっているのは、多分、東京ではここくらいだろう。日本橋よりも敷居が低い。

 

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なかでも長年、甘味処と和菓子屋の二つを本格的に続けているのは「御菓子司 つる瀬」だけ、と思う。ゆえに「あんこ界の二刀流」と呼ばせていただきたい。創業は昭和5年(1926年)と比較的新しい。現在3代目。

 

店頭で買って、中の甘味処で食べる。どこかの店のように値段が高くなることもない。お茶までサービスしてくれるのは、さすが湯島の老舗、とウルウルする。

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いつもなら豆大福を食べるところだが、今回は「栗蒸し羊羹」(1個 税込み230円)と「鹿の子」(同 220円)にした。

 

栗蒸し羊羹は季節限定なので、もうすぐ終わるのではないか。つまり本年最後の栗蒸し羊羹、というわけである。

 

ご覧の通り、見事な大栗が一個、さらに蒸し羊羹の中にも栗のかけらが潜んでいる。

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表面には透明な寒天の膜。その見た目の美しさ。

 

岸朝子がここの「豆餅」のファンだったが、和菓子屋としての腕は栗蒸し羊羹にも通じていると思う。

 

特徴は甘さがかなり抑えられていること。ねっとりとした食感で、蜜煮した栗の風味を前面に押し出している。

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主役はきりっとした大栗で、あんこはわき役に徹している。

 

あんこの甘さを求めると、やや物足りない。だが、食べ進むうちに「これでいいのだ」と思えてくる。

 

もう一品、「鹿の子」は珍しいものだった。えりも小豆でもなく大納言でもない。希少な「備中産だるまささげ」を使ったもの。ふつうは特別なお赤飯に使われるが、それを鹿の子にしているのが珍しい。

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一見見た目は大納言小豆のよう。ふつうの小豆よりも一回りデカい。食感も固めで、作るのに手間ひまがかかる。幾分色が明るめ。

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表面が寒天で覆われ、「鹿の子」という名前がぴったりくる。栗蒸し羊羹よりも甘めで、中のこしあんもしっとりとしていて、風味も大納言小豆みたい。

 

ちょっと驚くのは中に求肥(ぎゅうひ)が入っていること。外側のだるまささげの固めの風味ある歯ごたえとしっとりしたこしあん、さらに柔らかな求肥。この三重奏が面白い味わいを作っている。甘さの中に塩気もほんのりある。

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550円でこの至福を味わえるというのがうれしい。しっかり豆大福を手土産にして、師走の街をそぞろ歩く。平成最後の師走ももうすぐ終わる。

 

ここまでお読みいただいて、本年はお世話になりました。厚くあまーく御礼申し上げまする。

 

所在地 東京・文京区湯島3-35-8

最寄駅 東京メトロ湯島駅下車すぐ

 

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天空の隠れ家「青山紅谷」の二品

 

「御菓子司 紅谷(べにや)」の名前はディープな和菓子好きの間では知らない人はいない・・・はず(と断言してしまおう)。

 

南青山のビルの最上階に小さく暖簾を下げている。

 

いつかは行きたい店の最上位のどこかにランクされる、隠れ家のような名店だと思う。

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一年ほど前、あんこ好きの仲間が集まった飲み会で、あーだこーだと好きな店を挙げ、熱い論争になった。大手メディアの女性記者が「東京ではやっぱり青山の紅谷ね上生菓子のレベルがワンランク違う」と締めくくった。

 

その青山紅谷で、「豆大福」(税込み 1個183円)と「あゆ焼」(同270円)を何とかゲットした。人気の「ミニどら(ミニどら焼き)」は売り切れていた。

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これがうわさ通りの優れものだった。

 

まずは「あゆ焼」。ご覧の通りのきれいな焼き色。遊び心が表面に刻印されていた。よく見るとトナカイ、サンタさん、雪の結晶。クリスマスとお正月が季節感を演出していて、心が温まる。本来の和菓子の四季折々の伝統が形を変えて、この時代に生きている、そんな想いがよぎった。

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包丁で二つに切ると、どら焼きの皮生地の中に求肥(ぎゅうひ)に包まれたつぶあんが現れた。三層の甘い夢?

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このつぶあん。ふっくらと炊かれていて、素材のこだわりも見て取れる。小豆は北海道十勝産、砂糖は鬼ザラメを使用しているようだ。

 

歯ざわりのよさと求肥のもっちり感、それにしっとり感のある甘めのあんこがいい具合に口の中で小さな天国を作る。ほのかに生姜(しょうが)の香り。その余韻を楽しみながら、指先は豆大福へ

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ミニどらと並ぶ人気の逸品で、小ぶりながら、手包み感のある餅とうっすらと見える赤えんどう豆が一つの世界を作っている。スキがない。

 

餅のしっかりした柔らかさと中のふくよかなつぶあん、それに固めの赤えんどう豆が口中で交じり合う。皮まで柔らかいあんこの美味さと風味が際立っている、と思う。三位一体の至福。

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「青山紅谷」の歴史がすごい。大正12年(1923年)創業で、当代は3代目だが、それ以前が謎に包まれている。

 

「紅谷」という暖簾は、江戸時代に幕府御用達の菓子司だった「紅谷志津摩(べにやしづま)」につながっている可能性もある。明治維新とともに消えた別格の暖簾。店を畳んだ理由はよくわからない。

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たまたま店にいた清楚な美人女将さんにそのあたりを聞いてみると、「もともとは本郷にあったようですが、はっきりしたことはわかりません」とか。

 

私的にはどこかでつながっているはず、と思う。空想が膨らむ。

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それにしても利休の世界のような小さな店構え。紅谷ビルの9階にひっそりと紺地の暖簾を下げている。そのさり気ない凄み。茶席でも使われる上生菓子が静かに並んでいる。その見事な手作り感。

 

天空に近い小さな和菓子屋が、南青山にある。ほとんど奇跡に近い、そう思いたくなる。

 

所在地 東京・港区南青山3-12-12紅谷ビル9階

最寄駅 東京メトロ表参道駅下車歩約4~5分。

 

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こしと粒の合体「松本の老松」

 

こしあん×粒あん切ない恋愛=老松(おいまつ)。

 

そんなジョークを言いたくなる、あんこの和菓子と信州・松本市で出会った。

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御菓子司「開運堂」の開運老松(かいうんおいまつ)である。1本税込み1101円。大きいので思ったほどは高くはない。

 

まずはそのしぶ~いお姿を見てほしい。

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ロールケーキのように楕円形の長い、淡いこしあん色のスポンジ(?)。表面には老いた松の表皮ような、ひび割れがいくつか走っている。よく見ると、松の実が点々と埋まっている。

 

この凝り具合に和菓子職人の腕と暖簾の歴史が垣間見える。

 

中はどうなっているんだろう? 

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包丁で切ると、中心部には濃い小倉色の粒あんが詰まっていた。

 

試食すると、外側はスポンジだと思っていたが、違っていた。繊細な舌触りで、軽やかにいずこかへとスーッと溶けていく。和三盆のようなきれいな甘み。老松というより羽衣みたい。

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中のつぶあんは濃厚で、二つが口の中で交じり合うと、口溶けのよさときれいな小豆の風味が絶妙なマッチングとなる。かすかにシナモン(ニッキ)の香りもする。

 

この味わいは何だ? 

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開運堂本店につい電話取材したくなった。あんこ好きのサガ。

 

「外側のスポンジみたいなのは北海道産大手亡(おおてぼう)なんです。白あんのこしあんです。卵の黄身も使って、黄身しぐれのように仕上げてるんですよ。中の粒あんは十勝産えりも小豆で、限定区域のものを使ってます」

 

外側にはひょっとしてこしあんブレンドしている? 

 

すべてを解き明かすのは礼儀に反する。

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「開運堂本店」は創業が明治17年(1884年)。それ以前は呉服業を営んでいたようだ。江戸時代から続く老舗なのは間違いない。菓子屋になってからは現在4代目。

 

立派な店構えで、和菓子をメーンに洋菓子も売っている。

 

渋茶を飲みながら、この精緻な「開運老松」を味わっていると、来年は何かいいことが起きそうな予感がかすかにしてきた。運が開けますように。柄にもなくそんな思いが口から出そうになった。まさか?

 

所在地 長野・松本市中央2-2-15

最寄駅 JR松本駅お城口から歩約5分

 

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「おまん」のミラクル、玉英堂「玉饅」

 

京都で「おまんやさん」と言えば、饅頭(まんじゅう)などを売っている町の和菓子屋さんのこと。愛すべき下々の世界。上菓子屋とは一線を画している。

 

私が大好きな世界だが、この饅頭にもヒエラルキー(階級)がある。その最高峰(エベレスト級?)に位置する饅頭をとうとう買ってしまった。今回はおまんやさんではなく、上生菓子屋の饅頭、である。ま、たまにはいいかという気分。

 

見た目は大きな白い饅頭だが、二つに切ると、ちょっと驚かされる。

 

それがこれ。

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東京・人形町「玉英堂彦九郎(ぎょくえいどうひこくろう)」の「玉饅(ぎょくまん)」である。五色饅頭、と言ったほうがわかりやすいかもしれない。

 

1個がなんと680円(税込み)。値段もたけ~。

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なので、これを買うには財布と相談する必要がある。ここは創業がなんと(今日はなんと、が多い)天正4年(1576年)、京都三条大橋のたもとで店を始めたという。織田信長安土城を築城した年でもある。店主は24代目。二度びっくら。

 

「とらやき(虎家喜)」が有名だが、古くからの主役はこちら。現在の日本橋人形町に移転したのはつい最近で、昭和29年(1954年)。つい最近、と言いたくなる(笑うしかない)。

 

虎屋など上菓子屋が作る薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう=皮に山芋やつくね芋を練りこんだ饅頭)で、塩瀬饅頭などとともに、この「玉饅」はその最高峰に位置すると思う。あんこ好きにとっては一度は食べてみたい夢の饅頭・・・。

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何はともあれ、賞味することにしよう。だが、慌ててはならない。まずは五色の優美な世界を目で楽しむ。フツーの饅頭の3倍くらいの大きさ。

 

真ん中に蜜煮した栗、それを囲むようにつぶしあん、さくらあん、淡いうぐいす色の白あんが層になっていて、そして絹のようなつややかな皮が全体を包んでいる。

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3色のあんこがあまりに上品で、それぞれに淡い香りが秘められている。

 

あっさりとした、きれいな甘さで、私が好きな野暮ったい庶民的なあんことは食感がまるで違う。さらさらと口溶けのいい、貴種のあんこ。

 

上質のかるかんのような皮が秀逸。栗も柔らかくて、3色のあんことともに口中に運ぶと、絶妙な弦楽器五重奏のような味わい。うまく表現できない。

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胃にたまらないのが不思議で、ずしりと重いのに味わいは軽やか。きれいな余韻。

 

北海道産白小豆と大納言小豆を使用しているようだ。砂糖は和三盆かグラニュー糖だと思う。淡いきれいな色はクチナシで着色している?

 

作り方は一子相伝で、秘伝中の秘伝となっている。24代目当主がこの超老舗の歴史を守っている。なので想像するしかない。

 

かような上用饅頭を食べると、しばらくは下界に戻れなくなるかもしれないな。

 

十二単(じゅうにひとえ)の世界が頭の中をくるくる回っている。

 

冗談じゃないよ~。

 

所在地 東京・中央区日本橋人形町2-3-2

最寄駅 東京メトロ人形町駅、水天宮駅 歩約3~4分

 

 

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【お知らせ】 甘いニュースです。 「マネ会」というビビッドなサイトに私の「あんこ道楽」が掲載されました。よかったらご覧ください。https://hikakujoho.com/manekai/entry/20181206

 

 

 

常陸太田の奇跡「笹だんご」

 

和菓子好きの知人から面白い情報が入った。

 

新潟の笹だんごそっくりの餅菓子が茨城にある、というのである。

 

しかも由来があの水戸黄門徳川光圀)にまでさかのぼる、という。

 

かつては十軒以上が地元の名物として作っていたが、今では一軒だけ。それも元祖の店だという。

 

まさか? 正直に告白すると、私も知らなかった。

 

それがこれ。見た目は新潟の笹だんごそのもの。

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歴史のある、古い蔵や町家が今でも残る鯨ケ丘(くじらがおか)通りにその店「元祖 なべやがあった。

 

店のたたずまいに胸がときめいた。

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ここでは「笹だんご」とは呼ばず、「粽(ちまき)」と表記してあった。

 

1個130円(税別)。実直そうな4代目と雑談しながら、5個つながり(同650円)を買い求めた。外観はどう見ても笹だんご。

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その9時間後、自宅に帰ってから夜8時過ぎの遅い賞味となった。賞味期限が「本日中です」と言われたからである。むろん添加物などは使っていない。

 

濡れた熊笹を剥くように取ると、中から白い餅が見え、うっすらとあんこが透けていた。もち米ではなく、常陸コシヒカリを搗(つ)いたうるち米のだんご。

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中はこしあん控えめな甘さで、さらさらとした舌ざわり。北海道十勝産のいい小豆の風味。塩気がほんのりあり、このローカルの老舗がかなりの腕の職人だとわかった。

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朝作っているので、多分10時間は経過している。そのせいだろう、うるち米の皮は幾分固くなっていた。

 

作り立てを食べるべきだった、といささか後悔。

 

それでも新潟の笹だんごとは一味違う、素朴な美味さだった。立て続けに3個食べてしまった。一緒に買ったきんつばも上物だった。

 

4代目によると「元祖 なべや」の創業は明治8年(1875年)。元をたどれば、水戸光圀にまでたどり着く。家臣の佐々介三郎(助さんのモデル)を連れて越後に旅した際に、笹だんごと出会い、それを西山荘(光圀の隠居所)のある常陸太田に持ち帰って、地元の人に伝えた。江戸時代を通じて少しずつ改良され、幕末から明治にかけて現在の「粽(ちまき)」になったという。

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ルーツは笹だんごなのは確認できたが、それにしても気が遠くなるほどの長いながい笹だんごの旅だと思う。

 

ファミリーヒストリーではなく、笹だんごヒストリー

 

これだから和菓子屋巡りは止められない。

 

戦後の最盛期には十軒ほどあった店が、「今ではうちだけです」(4代目)。

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かつて戦国武将・佐竹氏の居城があった鯨ケ丘。鯨の背中に似た丘の形状から、「鯨ケ丘」という地名になったという歴史もある。

 

佐竹氏は徳川の世になって秋田に国替えとなり、光圀も「大日本史」をこの地で編さんした後、73歳でこの世を去っている。

 

時の流れは誰にも止められない。だが、ここに職人の手の匂いのする「粽(ちまき)」がしっかり残っている。

 

スマホの時代に、今もそれを味わえる。そのことを素直に喜びたい。

 

所在地 茨城・常陸太田市東3-2162

最寄駅 JR常陸太田駅から歩いて約10分

 

 

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京都の粋「しぐれ傘」

 

京都の畏友が持ってきてくれた手土産は面白いものだった。

 

メディア仲間の懇親会でのこと。

 

いつものように「はい、これ」ポンと手渡すだけ。説明はない。

 

これが曲者で、京都のすごさと奥の深さを感じさせるものばかり。

 

家に持ち帰ってから、きれいな包みを開けると、現れたのがこれだった。

 

で、でっかい(汗)。直径120ミリ、厚さ30ミリは優にある。どっしりと重量感のあるデカさ。

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これが、かの京華堂利保(きょうかどうとしやす)の「しぐれ傘」だった。

 

円盤状のどら焼きのようなカステラ生地の間に煉り羊羹が挟んであった。8人分で税込み1512円。買うには本店まで行くしかない、という希少な和菓子でもある。

 

見事なテカリの羊羹。カステラ生地はふわふわではなく、しっかりと焼かれている。

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表面には番傘の線が薄く引いてあり、数えてみたら12本分。つまり傘が12本分で、上から見ると、傘が開いている形に見える。黒文字が8本、別に包んであった。

 

このさり気ない凝り方が京都、だと思う。「わからんお人はわからんでよろしゅうおます」とつぶやいているよう。いけず、と紙一重。どこかに遊び心もある。

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下から黒文字を刺すと、傘になる。

 

目線を変えると、シベリアのようでもある。

 

羊羹はかなり甘めで、きめが細かい。小豆と寒天の煉りがなめらかで、そのねっとり感が素朴なカステラ生地とよく合う。小豆の風味を殺していない。

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京華堂利保は創業が明治36年(1903年)。現在4代目。武者小路千家御用達の菓子司で、京都では老舗とは言えないが、暖簾をあまり広げないポリシーはさすが、だと思う。

 

薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)に定評があるが、このユニークな「しぐれ傘」は2代目が考案したらしい。

 

与謝蕪村の句「化けそうな傘かす寺のしぐれかな」からヒントを得たとか。

 

どら焼きとシベリアを凝縮したような、密度の濃いあんこ菓子だと思う。洗練とは少し違う。野暮と紙一重

 

あんこのお化けも悪くはないかもなァ。

 

何よりもそのユーモアに脱帽したくなる。

 

所在地 京都市左京区二条通川端東入ル難波町226

最寄駅 神宮丸太町駅から歩約5分

 

 

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